■「サイバーセックス」産業に子どもを売る親たち

 首都マニラ(Manila)から南に約550キロ離れた海沿いの小さなイババオ村は、一見するとフィリピンの典型的な「地方コミュニティー」だ。住民の多くは何世代にもわたってこの土地に住み、親族や血縁関係者も多い。そのような土地柄のせいか、人々は昔からの結び付きを大切にしているように見受けられる。

 警察や関係当局によると、村の木造やれんが造りの小さな住宅の閉ざされた扉の内側では親たちが子どもらに命令し、ウェブカメラの前で性的な行為をさせていたとされる。撮影された映像は、料金を支払った世界中の小児性愛者たちへと配信されていた。

 中には、近所の大人にだまされ、同様の行為を強要された子供たちもいた。自分の子どもの友人らをだまして家に連れ込み、虐待した挙句に「誰かに話せば親がひどい目に遭う」などと子どもたちを脅した住民についても報告されている。

 シトイ町長は、イババオが他の町や村から離れていることと、子どもたちが人目に付かないよう屋内に閉じ込められていたこと、そして自治体の議員たちがこうした行為に手を染める親族がいても見て見ぬ振りを決め込んできたことが、この「産業」が発展を遂げてきた理由そのものだと指摘する。

 村での犯罪行為が明るみに出たのは約2年前のことだ。英国の小児性愛者が所有するパソコンに保存されていた画像ファイルが、この村で撮影されたものと確認されたことがきっかけになった。この事件を皮切りに、児童ポルノ組織の摘発に向けた世界的な捜査が開始された。

 フィリピンの警察当局は昨年3月、この英国人が禁錮8年の有罪判決を受けた直後に、英米豪当局の協力を得て、イババオ村周辺での捜査に着手している。

 しかし、匿名を条件にAFPのインタビューに応じた村の複数の住民によると、「サイバーポルノの拠点は今も存在し、犯罪者らは活動を続けている」という。安全面での不安や、伝統的に隣人の問題に口出しをしないというフィリピン人の国民性が、こうした違法行為に関する追及や、やめさせるための努力を押しとどめているようだ。

 ただし、積極的に話すことに応じたある主婦(38)は、村の多くの人たちがこの犯罪行為に関与してきたこと、そして自分の4人の子どもたちが巻き込まれないかと案じていることなどを打ち明けた。

「保育園のすぐそばでそうした犯罪行為が行われていたことに、私たちの多くが怒りを覚えています。子どもたちに起きていたことを知る由もなかったのです」