【12月3日 AFP】米ケンタッキー(Kentucky)州に住むシャーリー・ログスドン(Shirley Logsdon)さん(80)の元には、この1年半の間、未払いの医療費を請求する債権回収会社からの電話が執拗(しつよう)にかかってきていた。ところがある日突然、ログスドンさんは1通の手紙を受け取り、告げられた──あなたの983ドル(約10万円)の債務は「オキュパイ・ウォールストリート(Occupy Wall Street、ウォール街を占拠せよ)」運動につながる組織「ローリング・ジュビリー(Rolling Jubilee)」が債権を買い上げ処理された、と。

「びっくりしたけど、もちろんうれしかったわ」と、ログスドンさんはAFPの取材に語った。「すべて解決したと書かれた手紙を受け取った。もう心配することはない、もう借金はなくなったんだ、と。彼らが誰かは分からなかったけど、神様の使いだと思ったわ」

■反格差運動から派生したローリング・ジュビリー

 ローリング・ジュビリーとは、2011年に経済格差に抗議の声を上げたオキュパイ・ウォールストリート運動に参加した人の一部が約1年前に立ち上げ、現在「ストライク・デット(Strike Debt、借金をやっつけよう)」と名乗っている全米規模の集合体(コレクティブ)による債務帳消しプロジェクトだ。

 ローリング・ジュビリーのウェブサイトでは「私たちは力を合わせ、相互扶助、善意、集団での拒否に基づく運動を通じ、債務を負った人たちを片端から解放できる」と主張している。医療費や家賃といった基本的ニーズを満たすための支払いにさえ苦心している人たちの個人負債を買い上げるという構想だ。

 同プロジェクトは全米2693人の医療債務、約1350万ドル(約13億8700万円)相当の債権を一挙に買い上げたことを、12月に入り発足1周年に合わせて発表した。買収に要した額は40万ドル(約4100万円)だけで、主にインターネットで集まった小口の寄付金で賄われた。

 米国では、90日以内に支払いがなかった場合、銀行が損失を抑えるために、その債権を債権回収専門会社に安値で売り払うことができる。その債権はさらに転売される。

 ローリング・ジュビリーのウェブサイトには「銀行は債権をかなりの安値で債権回収業者の投機的な闇市場に売り払うが、回収業者は債務者から全額を回収しようとする」とある。

 しかし、ストライク・デットに参加するアン・ラーソン(Ann Larson)さんは「債務を帳消しにするために私たちが払った額は、債務1ドル相当につき、わずか2セントだった」という。

■基本的ニーズによる借金苦をなくす

 米国の自己破産の最大要因の一つが、医療費だ。

 腰のけがで病院に通ったログスドンさんは、治療費がそれほど高額になるとは思いもしなかったと語る。高齢者向け公的医療保険のメディケア(Medicare)に入っているのに「1000ドル(約10万円)近くもの借金になるなんて考えられない。普通はメディケアで何でもカバーされるのに」

 そんなときにローリング・ジュビリーからの助けがあった。ログスドンさんに届いた手紙にはこう書かれていた。「医療や住居、教育など生きていくために基本となることのために、誰も借金苦に陥ってはいけないというのが、私たちの信念です」

 ローリング・ジュビリーへの寄付金は「人々の助け合いの心を表しているとともに、皆が米国の債権システムをおかしいと思っている証拠だ」とラーソンさんは言う。

 ローリング・ジュビリーが次に取り組もうとしているのは、学生ローンだ。毎年、米国の学生の60%が学費を払うためにローンを組んでいる。米連邦準備銀行(Federal Reserve Bank)によれば、この9月、米国の学生が負っている債務は、総額1兆ドル(約102兆円)に達した。 (c)AFP/Raphaëlle PICARD