【12月3日 AFP】2010年に亡くなった米作家、J・D・サリンジャー(J.D. Salinger)の未発表の短編3作品がインターネット上に流出していることが11月末、明らかになり、謎を呼んでいる。著作権が問題となりそうだが、一方で文学界の世捨て人といわれたサリンジャーの新たな側面を示すものとしても注目が集まる。

 サリンジャーは1951年に発表した青春小説「ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)」で世界的名声を手にしたが、2010年に91歳で亡くなるまで半世紀近く、米北東部ニューハンプシャー(New Hampshire)州に引きこもりひっそりと暮らしていた。近しい人たちは、サリンジャーは執筆活動を続けていると話していたが、何を書いていたのかはずっと謎に包まれたままだった。

 今回、ネット上に流出した小説は「オーシャン・フル・オブ・ボーリングボールズ(The Ocean Full of Bowling Balls)」「バースデーボーイ(Birthday Boy)」「ポーラ(Paula)」の3作で、合計して41ページという短編。現在、さまざまなウェブサイトで無料で閲覧できる状態になっている。

 流出した3作品の原本は、インターネット競売大手イーベイ(eBay)で9月に67.5ポンド(約11400円)で出品されたものとみられ、出品者の住所をたどると英ロンドン西部のブレントフォード(Brentford)に行き着くという。

■未完であるがゆえの価値も

 ベストセラーとなったサリンジャーの伝記『 サリンジャー ――生涯91年の真実(J.D Salinger: A Life)』の著者ケネス・スラウェンスキー(Kenneth Slawenski)氏は新たに見つかった3作品ついて、程度の差はあれ下書きの段階で、磨き上げられていない未完作だが価値あるものだとAFPに語った。

「サリンジャーは仕事に関して完璧主義者だった。まだ編集が必要な状態の作品を発表するなどという考えは嫌ったに違いない。しかし未完であるために(流出した)作品からはサリンジャーの執筆過程をうかがうことができる。読者がそれを目にできることは珍しい」(スラウェンスキー氏)

 3作品の中でもスラウェンスキー氏は「ボーリングボールズ」を最も重要視する。「ライ麦畑」に直接関係する作品と見ているからだ。

 サリンジャーの未発表小説については9月に発表されたドキュメンタリー番組の中で、サリンジャーが少なくとも5つの作品について詳細な遺言を残していたことが明らかにされた。今後2015~2020年にかけての出版が見込まれている。

■米大の図書室が出所か

 スラウェンスキー氏によれば、サリンジャーの未発表作は今回の3作品を含めた計7作品を、米プリンストン大学(Princeton University)とテキサス大学(University of Texas)が所蔵しており、研究者の閲覧は可能だという。

「ボーリングボールズ」を含めサリンジャーの未出版短編を複数保有するプリンストン大学は流出した版について、図書室内で無許可で書き写したものではないかとみている。ほかにも、サリンジャーのタイプ原稿の複写が不許可となった1980年代半ば以前にコピーされたものである可能性もあるという。(c)AFP/Jennie MATTHEW