【7月22日 AFP】ベルギーの建国記念日である21日に退位し、長男フィリップ皇太子(Crown Prince Philippe、53)に国王の座を譲ったアルベール2世(King Albert II、79)はこの20年間、日刊紙に連載されている国民的人気漫画で肩の力が抜けた家庭的な人物として描かれてきた──。

 国王の有名な冗談好きも相まって、ピエール・クロール(Pierre Kroll)氏作の漫画は「国民の人気を得、国王を国民にいっそう近づける」ことに一役買ってきた。ユーモアに関する著者のベルナール・マリエール(Bernard Marliere)氏はそのように分析しているが、こうした気さくな国王像は、言語、宗教、歴史的背景によって分裂する一国の君主が行使してきた力を正しく伝えていない。

 ベルギーは来年5月に行われる総選挙で、北部フラマン地域の分離独立を主張する新フランドル同盟(N-VA)が躍進する可能性がある。

 フィリップ新国王(King Philippe)は2004年に「一部の政党は、国をばらばらにしたいと考えている。彼らは私を相手にすることになるだろう。私は恐ろしくもなれる。油断はしない」と述べ、裕福なフラマン地域を憤慨させた。しかし評論家らは、父親のアルベール2世が寛大で友好的だったのに対し、フィリップ新国王は用心深く付き合いづらい性格で、アルベール2世のような政治的手腕を発揮できないのではとみている。

 栄える港湾都市アントワープ(Antwerp)の市長でもあるN-VAのバルト・デウェーフェル(Bart de Wever)党首は、最近も王宮での会見にノーネクタイで現れた上、「私は民主主義者なので、共和制主義者だ。出自のおかげで権力を持つ人物は信用しない」と述べ、王制に対する侮蔑的態度を露わにした。

 ベルギー王家は、ラテン文化圏とゲルマン文化圏の交差点にある人口1150万人の小国がオランダから独立を勝ち取った1830年以来、この国を統治してきた。当時は現在とは逆で、フラマン語圏の北部が貧しく、国はフランス語系が支配し、フランス語圏の南部が工業地帯として発展した。しかし今、デウェーフェル党首とN-VAの支持者は、社会主義寄りの南部ワロン地域(Wallonia)を見下している。

「国王は君臨すれども統治せず」の言葉どおりアルベール2世はこの20年間、どちらの側にも与せず、ベルギーの舵取りをする政治的審判として重要な役割を果たし、政治的危機や分裂を巧みにかわしてきた。来年の総選挙でN-VAが大勝した場合に備え、それまではアルベール2世が王位にとどまることを多くの人々は期待していた。

 しかし2010年から11年にかけて起きた540日間の政治空白を教訓として、アルベール2世は、後継のフィリップ新国王が来年の選挙前に統治的な基盤を築く時間を与えたかったのではないかとの見方もある。ブリュッセル自由大学(ULB)の政治学者Caroline Van Wynsberghe氏は「(前国王の)退位によって、新国王が即位し、総選挙を前に政治指導者たちと会談を重ねることができる。誰も2010~11年の政治危機を繰り返したくはない」と解説した。

 またベルギー王室の元顧問官ピエールイブ・モネッテ(Pierre-Yves Monette)氏は、フィリップ新国王が欧州諸国の他の国王よりもずっと大きな政治的役割を担うことになるだろうと語っている。(c)AFP/Claire ROSEMBERG, Philippe SIUBERSKI