【7月1日 AFP】彼は映画のセットを作る仕事に就きたかった。だが代わりに、彼は世界を代表するインテリアデザイナーになった……航空機の。

 ジャック・ピエールジャン(Jacques Pierrejean)氏(61)は、今や有名となったエミレーツ(Emirates)航空のA380機のプライベートスイートをデザインし、ジャック・シラク(Jacques Chirac)仏元大統領やシルビオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)伊元首相の政府専用機を改装した。

 エミレーツ航空のA380機のファーストクラスに乗った人びとは、その体験を忘れることはないだろう──エミレーツ航空は、豪華な座席だけでは満足しない富裕層に壁とスライド式のドアで仕切られたプライベートスイートを丸ごと提供した。ミニバーや化粧台も付いてくる。

 パリ(Paris)のエコール・ブール国立工芸学校(Ecole Boulle)を1973年に卒業したピエールジャン氏は、航空機の内装のひどさを知り、2年後に「ピエールジャン・デザインスタジオ」を設立した。

「ニッチな職業だ。フランスには私たちを含めて2か所しかない」と、ピエールジャン氏は語る。自家用機や政府専用機を手がけることが、旅客機の仕事に大いに役立っているという。

■制約との闘い、慣習の革命

 1990年代にエミレーツ航空と仕事を始めた際、ピエールジャン氏には、ファーストクラスの乗客にまるでダッソー(Dassault)の人気プライベートジェット「ファルコン(Falcon)」に乗っているかのような空の旅を提供したいというアイデアがあった。

 だが当時は、旅客機の内装はまだ没個性的。客室を飾ることはとても過激なことだった。「技術者全員で(客室の装飾)に集中した。航空業界の慣習の革命だった。誰も思いつきもしなかったんだ」

 ファーストクラスとビジネスクラスの再デザインを可能にするため、技術者たちは技術的な制約を乗り越えつつ、安全基準の順守に努めた。

 たとえばピエールジャン氏は、光と空間の確保のため、頭上の手荷物ラックを取り除くことを決意した。だが、そのためには手荷物を収納できる別の場所が必要だった。また、安全基準に基づく酸素マスクをどこに設置するかという問題もあった。

 一方、手段が大きく制限されている改装もあった。これらはより創造性が求められた。モーリシャス航空(Air Mauritius)では、「建築の代わりに雰囲気(の設計)に向かった」という。

「乗客は機内に入ったらすぐに休暇中の、島に滞在中のような気分になる必要がある。客室は緑豊かなこの島(モーリシャス)の植物群を反映する必要があった」とピエールジャン氏は振り返った。(c)AFP/Delphine Touitou