【4月11日 AFP】ポーランドの劇団が、罪を犯した受刑者たちの社会復帰を助けるため、受刑者たちをプロの俳優と一緒にウィリアム・シェークスピア(William Shakespeare)劇のキャストとして配役した公演を行っている。

 窃盗から暴行致死まで、それぞれ異なる罪で服役中の受刑者6人は、首都ワルシャワ(Warsaw)で先週末行われたシェークスピア喜劇「真夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)」の公演に出演した。

 ディミートリアス(Demetrius)役のシモン・セメニュク(Szymon Semeniuk)受刑者(33)は「僕たちは本当にここまでこれるとは思っていなかった」と語る。最初は受刑者仲間や人々に笑われるのではと心配したという。「だけど初演を終えて、少し成長し、舞台の上でも自信が持てるようになった」。同受刑者は3年の刑期を務めている。

 受刑者らはポーランド東部オポーレルベルスキエ(Opole Lubelskie)にある厳重に警備された刑務所から、公演のためにバスに乗って出発した。この取り組みは、刑務所と劇団「Zapaleni.org」が協力して行うプログラムの一環だ。

 同劇団の創設者で俳優のダリウシュ・イエジュ(Dariusz Jez)さん(47)は「彼らは普通の男たちで、何かに取り組むこともできるし、好感を持てる人々だということを皆に知ってもらいたい。ただ与えられるだけではなく、与えることができる人々だということを」と語る。

 イエジュさんの発言の裏には自らの経験がある。丸いおなかと明るい笑い声を持つイエジュさんは、詐欺などの罪で服役した元受刑者だ。刑務所内で演劇活動に精を出したことがきっかけの一つとなって、現在ではプロの俳優として活動している。

 芸術には癒やしの力があることを心得るイエジュさんは、この取り組みをホームレスの人々や高齢者、エイズ(AIDS)患者など、社会の周縁に追いやられている他の人々にも広げようと計画している。

 パートナーで演出家のヨアンナ・レビツカ(Joanna Lewicka)さんによると、「真夏の夜の夢」を演目に選んだのは、塀の中で暮らす男たちにとって、この経験がまるで夢のようなものになるだろうと考えたからだという。

 参加した数十人の受刑者らは6月から準備を始め、舞台のデザインや台本の書き換え、せりふの練習などをプロの演劇関係者と共に行ってきた。

 劇について聞かれたセメニュク受刑者は「最初の動機は、刑務所から出ること、何かをすることだった。でもやってみると、皆のめり込んだ」と答えた。「僕個人で言うと、僕の娘に父親を誇りに思ってもらいたかった。刑務所にいるお父さんというだけではなく」

 当初は10月に1回限りの公演を行う予定だったが、プロジェクトは高い関心を集めたため、今月にもう一度公演が行われ、今後も継続することになっている。(c)AFP/Anna Maria Jakubek