【11月15日 AFP】中国の江沢民(Jiang Zemin)前国家主席(86)は、若い世代が実権を握るにつれ政治的影響力が弱まったとされ、昨年には死亡説さえ報じられていた──だが、同氏は北京で開催中の中国共産党第18回大会で再び驚きの健在ぶりを示した。

 中国共産党が15日の新指導部発表に向かう中、指導部交代における江沢民氏の影響力──あるいは少なくとも、同氏を黒幕とする江沢民派の影響力──は、ますます明らかになりつつある。

 前週の共産党大会開幕の際、江沢民氏は胡錦濤(Hu Jintao)国家主席のすぐ後に人民大会堂(Great Hall of the People)に入場し、胡主席の隣に着席し、時々うたた寝をしていた。

 専門家らは、党大会での江沢民氏の存在感は、中国の次期指導部を決める舞台裏の交渉で同氏が依然として影響力を発揮していることを示しているという。そして、次期国家主席と目される習近平(Xi Jinping)副主席が率いることになる中国共産党の最高指導部、中央政治局常務委員会(Politburo Standing Committee)は、江沢民氏の忠実な追従者らが中核を占めることになるとみる。

 中国の世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)加盟を導き、私営企業家の入党を初めて認めた江沢民氏は、よりビジネス志向の自由市場的経済政策の推進者とみられている。一方、胡錦濤派は、経済において国家がより大きな役割を果たすことを志向し、経済成長のみならず公平な分配も重視するとされている。

 だが両者の違いは政治的というよりは、むしろ個人的なもののようだ。

■指導部人事への「にらみ」、依然有効か

「江沢民氏はキングメーカーの役割を担っている」と語るのは、江沢民氏の伝記執筆者で香港大学(University of Hong Kong)の政治学者、ウィリー・ラム(Willy Lam)氏だ。「彼(江沢民氏)は派閥間抗争の中で非常に力を効かせてきた」

 高齢の党重鎮による密室会議が果たしている指導部選出における役割を中国共産党は打ち消し、指導者を選出するのは党大会での選挙だとしている。

 江沢民氏の腹心とされる新疆ウイグル(Xinjiang Uighur)自治区共産党委員会書記の張春賢(Zhang Chunxian)氏は、江沢民氏が依然、影響力を振るっているのではないかとAFP記者に質問され返答を拒否し、「まるでゴシップだ。どこからそんな情報を手に入れたのか」と笑って一蹴した。

 1989~2002年まで中央委員会総書記を務めた江沢民氏だが、病気の末、昨年は香港のテレビ局が誤って死亡を報じた。だが、今年に入って同氏はたびたび健康な様子で公の場に登場。髪を茶色に染めてまでいた。専門家らは、党大会を前に政治的実績を誇示することが狙いだったと分析している。

 江沢民氏の党内影響力は、胡主席の側近である令計画(Ling Jihua)氏の息子がフェラーリ(Ferrari)で女性2人を乗せて交通事故死したことを令氏がもみ消そうとしたことが発覚した最近のスキャンダルで、さらに強まった。

■一族を守ることが狙いか

 だが、江沢民氏が影響力を再び強めようとする狙いは政策の推進よりも、自らの一族の利益を守ることにあると専門家らは分析する。「江氏は自らの業績と2人の息子を守るために、党大会に向けてより多くの側近を昇進させたがっている」とラム氏は語る。

 江沢民氏の長男、江綿恒(Jiang Mianheng)氏は投資会社のトップとして米マイクロソフト(Microsoft)やフィンランド携帯電話大手ノキア(Nokia)などの外国企業との取引をとりまとめてきた実業家だ。また、次男は研究所の所長を務めている。

「2人の息子は多くの事業を手がけているため、汚職の疑惑をかけられる可能性がある。江氏はそういったことから確実に息子たちを守りたいのだ」(ウィリー・ラム氏)

 江氏は複数の腹心を政治局常務委員に滑り込ませることに成功した。結果、胡主席に忠実な常務委員の人数は少ない。ラム氏は「何の疑いもなく胡主席に忠実な人物は、(次期首相とみなされている)李克強(Li Keqiang)だけ」だと述べる。

 だが胡主席は緩くつながった自らの一派を、軍や地方共産党のトップのポストに昇進させることで、長期的な影響力を確保したという。「江沢民氏の影響力は党大会以後は続かないとみている。江氏は陰で糸を引こうと画策しているようだが、それらも有力な人物ではない」と、英ノッティンガム大学(University of Nottingham)の現代中国研究者、スティーブ・ツァン(Steve Tsang)教授は述べる。

 また健康面への不安に加え、習近平氏が国家主席に就任すれば自らの影響力確保に乗り出すとみられることから、江氏の影響力はさらに弱まるだろうと、専門家らは分析している。(c)AFP/Tom Hancock