【11月11日 AFP】カナダの首都オタワ(Ottawa)で10月29日、種子油製のバイオ・ジェット燃料だけで動く航空機の試験飛行が世界で初めて成功した。大気汚染の改善策としてだけでなく、農業関係者にとっての新たな収入源となる可能性も秘めており、大きな期待が寄せられている。

 仏ダッソー(Dassault)社製ジェット機「ファルコン20(Falcon 20)」が用いられた試験飛行では、エンジンの作動具合や燃料の燃焼を監視する目的でエンジニア数人が搭乗し、オタワ~モントリオール(Montreal)間を約90分で往復した。また機体後方にカナディア(Canadair)社製ジェット機「CT-133」がすぐ後を追う形で飛行して排出データを収集した。

 このプロジェクトは、米国のアプライド・リサーチ・アソシエーツ(Applied Research Associates)とカナダのアグリソマ・サイエンシズ(Agrisoma Biosciences)の2社がカナダ国立研究機構(National Research Council of CanadaNRC)と提携し、民間航空産業に向けた「再生可能エネルギーの持続的供給源」を開発してきた。

 これまでのところ、航空機でのバイオ燃料の使用は、従来の燃料50%、バイオ燃料50%の混合燃料に限られていた。

 しかし29日の試験飛行では、初めて100%純粋な再生可能ジェット燃料だけが使用されたとNRCは発表。またアグリソマのスティーブン・ファビアンスキ(Steven Fabijanski)最高経営責任者(CEO)も「このフライトはすべてを変える。私たちは石油をいっさい使わない飛行を目撃した」と語った。

 試験飛行を前にオタワにあるNRCの研究所で行われた事前テストでは、航空機のエンジンや燃料タンクに手を加えることなく、そのままの状態で従来のジェット燃料から種子油製バイオ・ジェット燃料に切り替えられることが実証済みだったという。

 試験飛行を終えた操縦士のポール・キスマン氏はAFPの取材に対し、通常の燃料使用時となんら変わらなかったと語り、あとはエンジンへの影響や、排出ガスの削減量が期待値に見合っているかどうかなど、さらなるデータの分析を待つばかりと述べた。

■農業関係者も歓迎

 今回バイオ・ジェット燃料の原料となったのは、半乾燥地域での栽培に非常に適する、アブラナ科の「アビシニアガラシ(別名:エチオピアンマスタード)」という作物だ。

 カナダ政府はこの動きによって新たにバイオ・ジェット燃料産業が興り、農業界に恩恵がもたらされることを期待している。アプライド、アグリソマの2社は、カナダ中西部の40以上の生産者(栽培面積にして約2430ヘクタール)と栽培契約を結んでいる。

 アグリソマのファビアンスキCEOは「この種子の栽培のためにわが社が契約している生産者は、食料となる作物の生産にあまり適さない土地を持つ生産者だ。この種子を栽培することで土壌が改善され、食用作物の栽培も可能となる」と説明する。

 商業用バイオ・ジェット燃料の生産コストはまだ算出されていない。しかし、アプライドのチャック・レッド氏は、本格生産に入れば石油系燃料との「コスト競争力」はあると自信を見せる。商品化はこの2、3年以内に可能だろうという。

 唯一残る疑問は、バイオ・ジェット燃料の使用で温暖化ガスを含めた排出ガスが実際に減少するのかといった点だが、NRCの科学者たちが今回の実験データを精査しており、その結果は数週間以内に出るという。(c)AFP/Sophie Fougeres