【8月16日 AFP】各界のセレブが本物そっくりの軍の訓練に参加し、競い合うという内容のリアリティーショーに対し、ノーベル平和賞受賞者たちが「極めて真剣な問題を矮小化している」と激しく批判、米テレビ局NBCに放送中止を求めている。

 番組は13日から放映が開始された『スターズ・アーン・ストライプス(Stars Earn Stripes)』(米国旗の星条旗を意味する「スターズ・アンド・ストライプス」のもじり)。8人のセレブが本物の兵士とペアを組み、米軍兵士たちが耐え抜いているとされる訓練そっくりの疑似訓練を課せられ、その結果を競うという内容だ。張り巡らされた鉄条網、派手な爆発やライフルの音も米軍の訓練そのものに再現している。

■ペイリン氏の夫も泥沼を前進

 米国防総省は番組への協力を断ったが、コソボ紛争時に北大西洋条約機構(NATO)軍を最高司令官として率い、大統領選にも出馬経験があるウェズリー・クラーク(Wesley Clark)氏が番組の司会を務めている。

 初回放送ではロンドン五輪中継の合間の大々的な番組宣伝にもかかわらず、視聴率自体はぱっとしなかったが、伝説のボクサー、モハメド・アリ(Mohamed Ali)氏の娘のライラ・アリ(Laila Ali)さん、前回大統領選で共和党の副大統領候補だったサラ・ペイリン(Sarah Palin)氏の夫のトッド・ペイリン(Todd Palin)氏などが出演した。

 セレブたちは戦闘装備を身に着け、泥をかき分けて進み、ヘリコプターから湖へ飛び込み、ドアを破壊し、標的を撃った。ヘリコプターのロープに捕まり損ねた参加者もいた。

 90年代のテレビシリーズ『新スーパーマン』に主演したスター、ディーン・ケイン(Dean Cain)さんは「ちっともジョークなんかじゃない。死んでもおかしくない場面だってあるよ」と述べた。

■「現実の戦争に娯楽要素などない」

 NBCでは、このリアリティーショーは米軍に「敬意を表するもの」だと宣伝している。

 しかし9人のノーベル平和賞受賞者たちは、「戦争をスポーツ競技のように見せることで、戦争を清浄化する試みだ」と番組を真っ向から非難した。NBCへ抗議の書簡を送り、「本物の戦争は泥にまみれて死ぬのだ。人々――兵士も民間人も――の死に行く様に、娯楽性など微塵もない」と糾弾している。

 これに対し、NBCは「このショーは戦争賛美ではなく、兵役を称えているものだ」と反論した。出演したセレブたちは最初から最後まで、制服姿の兵士たちをほめ称え、優勝したら賞金は軍のチャリティーに寄付すると語っていた。

 しかし13日の放送日にはニューヨークのNBC本社スタジオ前に約100人が集まり、数時間にわたって抗議。署名サイト「actionroots.com.」によると、放送中止を求める署名は翌日までに2万6000筆以上集まった。

「先週の金曜日にもアフガニスタンで6人の兵士が死んでいる。これは遊びではない」と「戦争に反対する祖母の会」の創始者ジョアン・ワイル(Joan Wile)さんは怒りを露わにする。「今にもわが国の若者たちが本物の戦争で死んでいるというのに、テレビの主要ネットワークが戦争を美化するリアリティショーをやっているとは心底おぞましい」

 一方、ハリウッド映画などに協力する米国防省の渉外担当責任者、フィリップ・ストラブ(Philip Strub)氏はこの番組について「この番組に協力したいと言う者は誰もいなかったので、関わらないことにした。こうした操作された、人工的な状況は常に不安を禁じ得ない。番組が私たち(軍)について十分伝えているとは思わないし、仕事の邪魔であり、時間も無駄になる」と述べている。さらに、セレブがブートキャンプ(新兵訓練)に参加するという内容のテレビ番組に海兵隊が協力したことがあるが、大変失望する結果だったとも語った。

 抗議書簡に署名したノーベル平和賞受賞者は、南アフリカのデズモンド・ツツ(Desmond Tutu)南ア聖公会大主教の他、アルゼンチンのアドルフォ・ペレス・エスキベル(Adolfo Perez Esquivel)氏、グアテマラのリゴベルタ・メンチュウ(Rigoberta Menchu)氏、米国のジョディ・ウィリアムズ(Jody Williams)さん、北アイルランドのベティ・ウィリアムズ(Betty Williams)さんとマイレッド・マグワイア(Mairead Maguire)さん、イランのシーリーン・エバーディー(Shirin Ebadi)さん、東ティモールのジョゼ・ラモス・ホルタ(Jose Ramos-Horta)前大統領、コスタリカのオスカル・アリアス・サンチェス(Oscar Arias Sanchez)前大統領ら、人権活動家や平和運動家などの9人。(c)AFP/Brigitte Dusseau