【4月9日 AFP】巨額の負債にあえぐギリシャで、世界有数の考古学的遺産が国家財政の重荷となりつつある。政府が認可する発掘プロジェクトは資金難で延期され、盗掘が横行し、博物館や美術館では人員不足を背景に貴重なコレクションの盗難が多発している。

「ギリシャの歴史的遺物がわれわれの呪縛となってしまった」――。ある考古学者は先ごろ、考古学予算削減に抗議するメディア向けイベントでこう嘆いた。

■増える盗掘、「いっそ発掘しないほうがいい」?

 ギリシャ政府はこの2年間、欧州連合(EU)と国際通貨基金(International Monetary FundIMF)による融資の条件として求められた支出削減に取り組んでいる。だが考古学者らは、景気低迷が5年目に入ろうとする中、認可を受けた遺跡発掘プロジェクトに対する国の資金援助が減らされる一方で、考古学的価値の高い遺物の密輸が増加していると警告する。

 ギリシャ考古学会はAFPの取材に、遺跡周辺での違法な発掘が増えており、トレジャーハンターのほか美術品の闇取引ネットワークに盗掘品を横流しする密売人もいると話した。ギリシャ警察は前月、強制捜査で密輸組織の44人を逮捕、古代硬貨数千枚やビザンチン(Byzantine)時代の多数の偶像を押収している。また前年9月にも、紀元前6世期の古代マケドニアの墓から出土した金の供え物など約1130万ユーロ(約12億円)相当を盗んだとして密輸組織が摘発されている。

 学会の重鎮の中には、価値の高い発掘遺物を守るためには地中に埋め戻したほうがよいと主張する学者さえ出てきている。

 テッサロニキ・アリストテレス大学(Aristotle University of Thessaloniki)のミハリス・ティベリオス(Michalis Tiverios)教授(考古学)は3月、日刊紙タネア(Ta Nea)に次のように語った。「遺跡や遺物は地中に置いておこうではないか。そうすれば、西暦1万年ごろに未来の考古学者が発掘してくれる。その時代のギリシャ人や政治家たちは、きっと歴史に対してもっと多くの敬意を払うだろう」

■人手不足に付け込み美術品窃盗も多発

 19世紀後半からギリシャ考古学史上極めて重要な数々の発見をもたらしてきた海外大学の発掘チームについては、今のところ資金不足に苦しんではいないようだ。だが関係者によれば、これまで海外発掘チームに支払われてきたギリシャ政府の支援はストップしており、発掘遺物の保管場所など予算のやりくりをしなければいけない状態だという。

 ギリシャ考古学会の前月の発表によれば、2011年の政府の考古学予算は前年比35%減の1200万ユーロ(約12億7600万円)で、2012年はさらに減額される見込み。文化省では職員の1割が解雇され、臨時職員3500人を投入して博物館や遺跡、発掘現場などの管理業務をこなしている有様だ。

 この財政難と職員不足が、犯罪組織の付け入る隙となっている。1月にはアテネ(Athens)の国立美術館(National Gallery)で、職員のストライキ中にスペインの巨匠パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)の貴重な絵画など計3点が盗まれる事件が起きた。2月には五輪発祥の地オリンピア(Olympia)の古代オリンピック競技博物館(Ancient Olympic Games Museum)に武器を持った2人組の強盗が押し入り、展示品70点超が奪われている。

 EU資本による修復作業が続くアテネの古代遺跡アクロポリス(Acropolis)や、クレタ(Crete)島のクノッソス(Knossos)宮殿、デルフィ(Delphi)やオリンピア、ベルギナ(Vergina)の聖域、古代マケドニア王たちが眠る死者の都(ネクロポリス)などは、資金難の影響をまだ受けていない数少ない遺跡だ。

 しかし、それ以外の場所では資金はほぼ底を尽きかけているか、皆無かのどちらかだ。

 アテネの国立考古学博物館(National Archaeological Museum)やテッサロニキのビザンチン文化博物館(Museum of Byzantine Culture)は、警備員不足のため定期的に全館休館を繰り返している。(c)AFP/Isabel Malsang

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