【3月27日 AFP】「人生は40歳から」との格言は、毎年数百万人もの命を救う治療に不可欠で核爆弾にも転用可能な物質を扱う小型の原子炉には、あてはまらない。

 韓国のソウル(Seoul)では核安全保障サミット(Nuclear Security Summit)が開幕した。だが、この「もう1つの原子力技術」に関しては、数々の問題が何年も前から知られていたにもかかわらず、それらの問題が提起されたことはほとんどなかったと、専門家らは指摘する。

 医療研究用原子炉で作られた「照射ターゲット」は、最も一般的に使われる放射性同位元素「Mo-99(モリブデン99)」の製造大手5社に持ち込まれる。Mo-99は放射性崩壊すると放射性医薬品「Tc-99m(テクネチウム99)」となる物質で、世界で1秒に1度の頻度で治療に使われている。

 世界では毎年、がんなどの診断約3000万件で医療用アイソトープ(同位元素)が用いられているが、そのほぼ全てを、わずか8基の研究用原子炉に頼っている。だが、それらの原子炉は1基を除き、建設から既に40年以上が経過したものばかりだ。

 8基の原子炉のうち、「ビッグ5」とよばれるのがベルギー、カナダ、フランス、オランダ、南アフリカにあるものだ。この5基で世界の供給量の95%を製造しているが、これらの原子炉は建設から既に45~54年が経過している。

 残る3基の建設後年数はポーランドが38年、チェコのものが55年。オーストラリアの原子炉は最も新しく、建設からわずか5年となっている。このほかにも類似の小型原子炉が世界に数十基ある。このうちの1基はイランにあり、国内需要向けのものだ。

■老朽化と安全保障上の問題

 AFPが入手した国際原子力機関(IAEA)の2012年原子力安全報告書(Nuclear Safety Review)の草案によると、「ビッグ5」の原子炉5基全てにおいて「老朽化に関連した問題」が報告されている。高額の修理費用や製造停止による世界供給への大きな影響などの問題だ。

 この問題では2009~10年に製造最大手で米国への主要供給先であるカナダ原子力公社が運営するNRU炉が15か月間閉鎖された際に、すでに警鐘は鳴らされていた。同じ時期にはオランダの高中性子束炉(HFR)も5か月間停止し、供給面で大きな問題が生じた。

 IAEAの研究炉部門の研究者、エド・ブラッドリー(Ed Bradley)氏はAFPの取材に対し、「あの時の危機は収束したが現在も、より大きな問題が残っている」と語った。

 問題は供給だけにとどまらない。こうした施設への依存が、さらに大きな懸念をもたらしている。

 南アフリカのペリンダバ(Pelindaba)原子力研究所での生産能力分の半数とオーストラリアの研究用原子炉「OPAL」を除いた全ての他の原子炉が扱っているのは、核爆弾の製造を可能とする高濃縮ウラン(HEU)だ。

 2007年にはペリンダバに武装集団が押し入る事件が発生したが、当時ペリンダバには核兵器30個分の製造が可能な量の高濃縮ウランが貯蔵されていた。幸いにして放射性物質は盗まれなかったものの、事件はこれらの施設が潜在的に持つ危険をあらわにした。

■国際協調の遅れ、「経済性」や認知不足が原因に

 安全保障上の懸念や供給面での問題への取り組みとして、近年では原子炉施設の分散や、危険の少ない低濃縮ウラン(LEU)への切り替えなどで国際的な協調が進んでいる。

 豪メルボルン大学(University of Melbourne)のティルマン・ラフ(Tilman Ruff)准教授によれば、こうした取り組みは、一定の成果を上げている。ラフ准教授は核兵器廃絶国際キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)や核戦争防止国際医師会議(International Physicians for the Prevention of Nuclear War)のシニアメンバーだ。

 ラフ准教授が指摘するように、ペリンダバ原子力研究所では原子炉の半数を低濃縮ウラン用に切り替え、カナダも高濃縮ウラン原子炉2基の新設計画を白紙に戻した。オーストラリアやアルゼンチン、インドネシアの新規原子炉からの輸出が増えることも期待されている。さらに原子炉の代替研究の将来も明るい。

 それでも成すべき課題は、まだ多く残る。

「一般的に政府はこの問題に無関心で、財政支援を行うリーダーシップにも意欲にも欠けている」と、ラフ准教授はAFPに語る。

 欧州での低濃縮ウラン切り替えの動きは遅い。一方、カナダのTc-99メーカー大手「Nordion」は、NRU炉が閉鎖する2016年以降にウランターゲットを供給する契約をロシア企業と結んだ。ロシアは世界最大の高濃縮ウラン保有国でもある。

 2010年の経済協力開発機構(OECD)報告書によると、進展が遅れている最大の理由は経済性だ。報告書は、低濃縮ウランを基本とした製造は「現状では市場に支持されていない」と結論づけている。

 その理由の1つは、主要原子炉のほとんどが元来は政府資金で建造されたものであるためだと報告書は指摘。そのため現在も政府から助成を受けており、新規参入が困難になっているという。

 これらに加えて、ラフ准教授は同僚の医師らにも責任があると語る。彼らは「積極的かつ建設的にリーダシップをとるという役割を果たさなかった」のだという。「医師の大半は、自分らが患者に用いているアイソトープがどのように製造されているのか、今でもよく知らないのだ」

(c)AFP/Simon Sturdee