【9月16日 AFP】トラの密猟については、アジアのマスコミでもだいぶ批判されるようになったが、野生動物保護団体が今、種の未来を憂えているのは、うろこに覆われたあまり「かわいげのない」姿の小動物、センザンコウだ。

 希少動物のセンザンコウだが食用や薬の材料として珍重され、アジア域内では現在、最も激しく不法取引されている哺乳動物とみられ、絶滅へと急速に追いやられつつある。

 世界の野生動物取引を監視しているNGO、「トラフィック(Traffic)」のカニター・クリシュナサミー(Kanitha Krishnasamy)氏は「驚くほど大量に押収されている。これだけの規模の密猟を生き残れる種などないだろう」と危惧している。「残念ながら、このうろこだらけの動物は世間にそれほど注目されず、よって当局の関心もひかない。もっと大型の哺乳類と比べて、センザンコウは魅力的でないと思われているのです」

■食肉や薬として珍重される中国やベトナムへ

 センザンコウの取引は国際法で禁じられている。しかし、トラフィック・アジア支部の統計によると、インドネシアやマレーシアを中心に野生のセンザンコウは頻繁に密猟され、そこに急速な森林破壊が加わって種の生存が脅かされている。密猟されたセンザンコウは東南アジアを通り、大半が食肉として珍重される中国かベトナムへ密輸される。また、哺乳類として唯一持つうろこは、薬にするため粉にされる。
 
 英ケント大学(University of Kent)のセンザンコウの専門家、ダン・チャレンダー(Dan Challender)氏によると、センザンコウは昔から漢方薬として使われ、現在も腫れ物やぜんそくを抑えるためにうろこの成分が使われるなどしている。また肉を食べると腎臓の滋養強壮に効くとされているが、どれも信頼できる調査データがないため、「すべての用途は今日までつかめていない」という。「需要、そして供給する側についても何らかの手を打たないと、センザンコウはアジアで近い将来、絶滅してしまうだろう」

 センザンコウは脅威に接するとハリネズミ同様、アーティチョークのつぼみのように体を丸めるため、人間に捕獲されやすくなる。人身売買や野生動物の取引に反対する団体「フリーランド(Freeland)」のスティーブ・ギャルスター(Steve Galster)代表は、アジアの野生動物の違法取引の中でも、時に1000ドル(約7万7000円)以上で闇取引されているセンザンコウは「知られてない問題」だと言う。

■肉7.5トンが押収された例も

 すでに今年もタイからカンボジア、インド、マレーシア、ネパール、ミャンマー、ベトナム、インドネシアの密輸ルートに沿って押収が報告されているが、トラフィックは「氷山の一角だろう」と指摘している。大量に発見された一例では、5月にインドネシアのジャカルタ(Jakarta)の税関でベトナム行きの積荷から、木箱の中に上から冷凍魚で覆い隠したセンザンコウの肉7.5トンが押収された。同港のラフマト・スバギヨ(Rahmat Subagio)税官長は「丸くなると20センチ程度になってしまう、まだ幼いセンザンコウまで捕獲しているとは言語同断だ」と憤ったとされる。

 トラフィックによると2010年末に押収された資料には、マレーシアのボルネオ(Borneo)島内のサバ(Sabah)州で1年2か月の間に、ひとつの密輸業者だけで2万2200匹のセンザンコウを殺し、取引した例もあった。

 しかし、センザンコウはたいてい新鮮さを保つために生きたまま輸送され、密輸業者たちは重さをかさ増しするためにセンザンコウに水を注射することが知られている。一方で、水や食料は与えられず結局、輸送の途中で死んでしまうことが多い。

■熱帯林の生態系も崩壊の危機

 専門家らは、野生のセンザンコウの捕獲によって、熱帯林の生態系も壊れると警告している。センザンコウはアリやシロアリを食べるが、それが重要な有害生物防除の役割を果たしているからだ。

 一方でアジアの各当局は「大物マフィアや大規模なコネクションを持った密輸業者」といった「有力者」の取り締まりに消極的だ。密輸をしている者たちは、希少動物を食い物にして何百万ドルと儲けているにもかかわらず、裁判官たちはこの問題を重要視せず、野生生物に対する犯罪に関する法律は抜け道によって骨抜きにされていると、ギャルスター氏は語る。「処罰されたとしても、軽い警告程度で済まされている例を山ほど見てきた」(c)AFP/Rachel O'Brien

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