【9月10日 AFP】10歳のとき登校中に誘拐され8年半にわたって監禁されていたオーストリア人女性、ナターシャ・カンプシュ(Natascha Kampusch)さん(22)が9日、自伝を出版し、この中で警察の対応のまずさを大いに批判した。

 ナターシャさんは9日夜、ウィーン(Vienna)の書店で行われた出版記念イベントで300人余りが見守るなか、自著『3,096 Days(3096日間)』の一部を朗読した。

「わたしは、自力脱出したあとで、警察がまじめに対応していれば犯人はすぐにでも逮捕されていただろうことを知りました」

■警察は「事件車両」も調べていた

 ナターシャさんは10歳だった1998年、ウィーンで登校途中、通信技術者のウォルフガング・プリクロピル(Wolfgang Priklopil)容疑者(当時44、死亡)に誘拐された。2006年に自力で逃げ出し保護されるまでの8年半、プリクロピル容疑者の自宅の防音処理を施されたわずか5平方メートルの地下室に閉じ込められていた。プリクロピル容疑者はナターシャさんが脱出した日の夜、列車に飛び込み自殺した。

 10歳のナターシャさんは、テレビの刑事ドラマの大ファンだった。そのため、地下室に閉じ込められている間、警察がDNA鑑定などの科学捜査を駆使して自分の居場所を突き止め、助け出してくれる様子を思い描いていたという。

「でも、警察はそうした捜査を一切やっていなかったんです」

 ナターシャさんの行方が分からなくなった数日後、警察はプリクロピル容疑者の自宅を訪れ、同容疑者を事情聴取した。誘拐に使用された車と家の中も確認した。しかし、プリクロピル容疑者がアリバイを証明できなかったにもかかわらず、警察は不審には思わなかったようだという。

「捜査員は車や家を念入りに調べることもなく、手間を取らせたことを彼に謝罪して去っていきました」

■まるで「犯人扱い」

 自著には、06年に脱出した際に、警察からまるで犯人扱いされたことに対する不満も書かれている。

 隣の家の庭に脱出したナターシャさんは、警察の到着を待つ間、プリクロピル容疑者に見つかるのではないかとビクビクしながら生け垣の下に潜んでいた。ところが、やっと到着した警官の言葉に耳を疑った。「そこから動くな。両手を上げろ!」

「晴れて自由になれた瞬間がコレだなんて、想像もしていませんでした。犯罪者みたいに、生け垣のそばで両手を上げて立ち上がって、自分が何者なのか警察に弁明するなんて」

 ナターシャさんが自力で脱出したことに、警察がイライラしていると感じたとも記している。「この場合、彼らはわたしの救出に成功した人々ではなく、長年にわたり(救出に)失敗してきた人なのです」

■共犯者はいない

 出版イベントの司会者に「8年半にわたる心身への虐待にもかかわらず、なぜたびたび犯人に人間らしい応対をしたのか」と聞かれると、ナターシャさんは静かにこう答えた。「(地下室にいること自体)憂鬱でした。(誘拐犯へ)憎しみを向けたら、殺されてしまったかもしれません」

 共犯者がいたのではないかという憶測については否定した。「警察にとっては、犯行の裏に巨大な陰謀が渦巻いていたと考えるほうが、すべて1人で実行した悪人顔でない犯人を見過ごした事実を認めるより、簡単だったのでしょう」

 自伝を執筆した目的は「自分を解放するため」と説明した。

 9日発売された初版は5万部。12日には、ロンドン(London)で出版記念イベントを開く。(c)AFP/Sabrina Guillard

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