【9月8日 AFP】ケニアの野生動物の楽園、マサイマラ(Masai Mara)は、放牧、農業、そして過剰な観光産業により、その自然が失われつつあるが、投資家や環境保護活動家は革新的なビジネスを通じて自然を守ろうと、動き始めている。

 マサイマラ国立保護区では毎年8月、隣接するセレンゲティ(Serengeti)国立公園からのヌーの大移動が見られる。「12年前には120万頭いたヌーも、前年までに30万頭に減った」と、マサイマラに34年間暮らしているケニア人の環境保護活動家、ロン・ビートン(Ron Beaton)さんは危機感をつのらせる。

 マサイマラ自体の面積の4倍に当たる周辺地域は、牧畜の民・マサイ人(Maasai)に与えられた私有地だ。「土地は神から与えられたもの」と考えてきたマサイ人の間に「所有権」という概念が芽生えたため、自由な放牧はいさかいの元となり、農業に転身したり土地を転売したりするマサイ人も増えてきた。

 また、保護区の収益の見返りがあるわけでもなく、家畜を襲うライオンを殺してはならないという理由も見あたらない。こうしたことが、世界有数のライオンやゾウの生息地をせばめる結果となっている。

■新しい保護モデル例

 2006年、個人投資家らはマサイ人たちの協力のもと、マサイマラに隣接する2万エーカーの土地にOlare Orok保護区を誕生させた。保護区内には高級ロッジ4軒が建設された。

 この保護区内の場合、マサイ人150人あまりが各世帯が所有する150エーカーを観光業者に貸し出して、毎月決まった賃借料を受け取る。誰もが観光収入を得られる仕組みだ。土地を貸したマサイ人は、動物たちが自由に徘徊できるよう、ほかの場所で暮らすことになる。なお、賃借料は、農業で得られる収入よりも多い。

■マサイ人の社会崩壊も防ぐ

 保護区や生態系の管理を誤ると、野生動物を激減させるのみならず、かつての北米のインディアンのように、マサイ人の社会を崩壊させることになりかねない。前述のような、地元住民が利益を享受できる新しい保護モデルは、マサイ人が従来のライフスタイルを取り戻すことにもつながり、マサイ人のアイデンティティーも守ることができると環境保護団体は言う。

 なお、マサイマラに隣接するMotorogi保護区では、英実業家のリチャード・ブランソン(Richard Branson)氏が豪華エコロッジの建設を計画している。(c)AFP