【10月10日 AFP】ノーベル文学賞を選考するスウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)は厳格で落ち着いた組織だが、受賞者を選ぶ長時間の密室会議では一転、毎年激しい議論が白熱するという。

「激論となることもある。全会一致が得られるような組織ではもともとない」と、同アカデミーのホーラス・エングダール(Horace Engdahl)代表(58)がAFPのインタビューに答えた。

■何が起こるか最後まで分からない

 今年のノーベル文学賞は11日に発表されるが、「何が起こるか、事前には分からない。アカデミー内でも、最後の瞬間まで誰が受賞するか分からない」という。受賞者選考をめぐる議論については「礼儀は保つが、白熱する。文学に関する議論では時に、不思議な反応が起こる」とエングダール氏はほほ笑みながら語った。

 エングダール氏は1999年以来、同アカデミー会員の代表を務めている。18人いる終身会員のほとんどは70-80歳代で、エングダール氏は最も若い会員の1人だ。

 同氏はフランスの詩人、ポール・ヴァレリー(Paul Valery)やアルゼンチンの小説家、ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)などの名を挙げ、彼らがノーベル文学賞を受賞しなかったことは残念だと述べた。

 ボルヘスの代表作『砂の本(The Book of Sand)』がノミネートから外されたのは政治的思惑からだとする見方もあるが、エングダール氏は選考過程で「政治について議論されることは決してない」とこれを強く否定した。

■翻訳者にも口止め

 ノーベル賞の選考は毎年2月に始まる。4-5人の会員で構成される委員会がまず、世界中の学会や文学協会などが推薦する200-300人の作家一覧から候補者を選別。4-6月には候補者は20人まで絞られる。

 委員会では候補作品を原文で読むよう可能な限り努めるが、委員会の主要言語が英仏独露語に限られるため、難しい場合は訳本が用いられる。「翻訳を依頼することもあるが、(翻訳家には)口外しないことを誓約してもらう」という。

 過去数年では、候補となった詩人の作品の訳を依頼した例があるという。「詩の場合、翻訳は必須だ。翻訳家が来て朗読してもらい、その言語の機微まで説明してもらう」。

 夏季休暇までに委員会は候補者を5人までに絞り、そのリストをアカデミーのほかの会員に提示する。そして夏季休暇中に全会員は5人の作品を読破することが「望ましい」とエングダール氏はいう。

 9月には長期間におよぶ全体協議が行われ、投票が始まる。投票は無記名で、候補者1人に対する投票が過半数に達するまで行われるが、通常は2回目の投票までで決まる。

■候補者名を語るときは符丁で

 アカデミーの全会員18人のうち今年の投票に参加するのは15人のみ。1人は亡くなった会員の後任が決まっていないためだが、2人は議論で対立したため投票をボイコットする。

 ノーベル文学賞の選考は通常、受賞者発表まで固く秘密にされている。「規則は非常に厳しい。わたしが代表になってからはさらに強化した。公の場で作者について議論することは許されていないし、本を持っている姿を見られてもいけない。もし人前で話すならば、作者名を符丁で話す」とエングダール氏。

 2005年の受賞者、ハロルド・ピンター(Harold Pinter)示す符丁は「ハリー・ポッター(Harry Potter)」だった。この「秘密主義」が、受賞者をめぐる周囲の憶測をさらにあおる原因ともなっている。「推測が飛び交うのを見るのは楽しい。当たった試しはないから」と、エングダール氏は笑った。(c)AFP/Francis Kohn