―アトリエのスタッフの仕事を実際に目にしてみて、監督が改めて感じたことはなんですか?

 私が驚いたのは、職人たちの豊富な知識とコレクションにかける想いの強さです。ファッションは、ともするとワンマンショーと見られがちです。クリエイティブ・ディレクターが雑誌などに登場し、私たちもその人のコレクションとして捉えがちです。しかし職人たちと話してみれば、彼らが作品に精魂を傾け、クリエイティブなエネルギーを注いでいることも事実なのだとわかります。

 彼らは制作中のドレスをベイビーと呼びます。非常に興味深いことです。私が『ディオールと私』というタイトルを付けた理由はここにあります。「ディオールと私」というのは、ディオールとラフという意味だけではありません。ディオールとモニク(※テーラード部門 職長)であり、ディオールとフロランス(※ドレス部門 職長)であり、コレクションに全身全霊を捧げた職人たち全員のことを指しているのです。

―監督が『ドキュメンタリー』にこだわる理由は?

 フィクションも撮ってみたいと思っていますよ。しかし、ドキュメンタリーと同じ雰囲気に仕上がると思います。実際の話も、実在の人物もフィクションのように扱うからです。私はできる限り、彼らの頭を覗きこんで彼らが感じていることを感じたいと考えています。私は非常に共感しやすい性格です。ラフや職人にも非常に強い思い入れがあります。このドキュメンタリーは私にとって、自分自身の制作過程を語る手段でもあります。

 私にとっての制作過程とは、つまり映画の制作過程のことですが、この映画を初めて発表したときは、ちょうどラフが自分のコレクションを発表したときのように泣いてしまいました。クリエイティブな人であってもなくても、何か仕事に取り掛かるときはそれが非常に重要な存在になり、それを世間に発表する時は非常に重要な瞬間になります。私が描こうとしていたのは、そういった人々の感情の移ろいです。なぜなら私も自分自身の中でその移ろいを感じていたからです。

―本作を撮り終えて新たな発見はありましたか?次回作のテーマは決まっていますか?

 映画の制作は私にとって、その映画が一体どういうものなのかというのを発見する過程です。最初に分かっているのはそれを撮りたいということだけで何故撮りたいのかということまでは分かりません。それが私がドキュメンタリー制作が好きな理由です。人々の生活に入り込むと、彼らが、私を成長させてくれたり、私自身についての何かを気づかせてくれるのです。

 この映画は特に、私を人として成長させてくれたと思います。まずラフや職人たちの仕事にとても刺激を受けました。クリエイティブな制作過程について学ぶことが多くありました。もちろん一人で監督を務めた最初の作品ということもあります。他の作品は、共同監督だったり、プロデューサーという役回りだったので、違う能力が求められました。ですから、この映画は私にとって大きな挑戦でもありました。ちょうどラフにとってオートクチュールが大きな挑戦だったように。スケールは違いますが、感情としてはとても似ています。(終わり)

【関連情報】
Bunkamura、ル・シネマほか全国で公開中。
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