―監督にとって「ディオール」はどういう存在なんですか?

 フランスでは、「ディオール」はとても大きなメゾンであり、莫大な遺産です。フランスのファッションブランドのトップ3は「シャネル」、「イヴ・サンローラン」、「ディオール」です。中でも「ディオール」は、非常に秘密主義なところがあります。情報もあまり表に出ていませんし、「ディオール」についての映画もあまり存在しません。ブランドの歴史も世間にはあまり詳細にわたって知られていません。私はそれが面白いと感じました。神秘的な雰囲気を感じましたね。クリスチャン・ディオールについて調べるまで、私は彼のことをよく知りませんでした。伝統がありながら、未知の分野がある巨大なメゾンです。

―アーティスト気質でセンシティブな性格のラフ・シモンズを追いかけるのは相当大変だったと思いますが、具体的にどんな難しさがありましたか?

 ラフは、とても話しやすい人で、そういう意味では普通の人です。実際は、彼は非常に好奇心旺盛で、よくしゃべる人です。しかし世間のイメージとは違いますよね。世間からは内向的、冷たいというイメージを持たれていますが、私が接する限り、それは事実とは違います。一番最初のときから、非常にたくさん話をして、質問も受けましたし、私がどんな人物で何をしている人間なのか、どういう意見を持っているのかといった点にとても興味を示してくれました。

 もちろん、プライバシーも守ろうとしていましたし、そのことは映画を見ている人も頭に入れておく必要があります。秘密にしておくべきこともありましたから、すべてを撮影できたわけではありません。コラボレーターとの会話については、内密にしておく必要がありました。私たちもできるところまではやりましたが、彼が「このミーティングは撮影できない。全力を出さなければいけない場だし、後ろでカメラを回してほしくない」と言うこともありました。こういった具合に、いつも話し合いをしながら決めていました。彼と交渉して、うまくいくこともあればいかないこともありました。すべては話し合いでした。