■ますます中身化するファッション

 ノームコアの現象を調べ、フィオナ・ダンカンの取材を通じて、主に3つの種類のノームコアが存在することがわかってきた。1つめは、冒頭で論じているファッション愛好者たちが終わりなき個性探求への疲弊から見出された“普通”を肯定するファッショナブル・ノームコア。このノームコアはカジュアルダウンしたとはいえ、それなりにこだわりやセンスを持ち合わせているので、お洒落に着こなしている人がほとんどだ。2つめは故スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグを例にあげたようなテック系ノームコア。強い意志で持ってカジュアルなスタイルにこだわり、ソーシャルメディアの時代に服で自己主張するという考えを時代遅れとする装い。3つめは、個性を主張せず、無難であることを第一義にしたアノニマス(匿名的)ノームコア。いずれにしろ、ソーシャルメディアで多くの人が自ら発信し、その言動が良くも悪くもかなり可視化されている時代の到来において、ファッションはコミュニケーション・ツールとして重要ではなくなってきている。そんな状況が拡がることを2012年の当サイトの連載「ファッションが終わる前に」第1〜6回(http://www.afpbb.com/articles/modepress/2930297)や、それを発展させた拙著『中身化する社会』(星海社新書 2013年2月刊)で予見していたのだが、それがますます実態を伴ってきたという感がある。

 前述のジャーナリスト佐々木俊尚氏はこの現象をツイッターで「着てる服で個性を表現する時代が終わりつつあるということ」と紹介。また「につまるとblog」というブログでは「ノームコア:7億分の1を自覚するためのファッショントレンド」と題した記事で、「ノームコアという言葉が出る前に“今は服もカジュアルだ。SNSで中身が見えるから、みんなそこで自分を出すんだ!”という主張をしていて、タイトル通り「中身化する世界」なのです」(2014年4月1日)と言及しており、ノームコアは中身化と極めて密接な現象なのではと思いたくなる。

 フィオナ・ダンカンが言うように「デジタルメディアがあれば、現実はシンプルで良い」のであれば、ますます情報の洪水化が進むデジタルの世界に反して、現実世界を人々はますますシンプルにしようとするのだろう。加速するデジタル疲労から生まれる「シンプルであって欲しい現実」の行方を見て行きたい。(つづく)【菅付雅信】

■プロフィール
1964年宮崎県生まれ。法政大学経済学部中退。「コンポジット」、「インビテーション」、「エココロ」などを創刊し編集長を務める。現在は雑誌、書籍、ウェブ、広告などの編集を手がける。著書に「東京の編集」「はじめての編集」「中身化する社会」等がある。

■「ライフスタイル・フォー・セールス」過去記事一覧
http://www.afpbb.com/articles/modepress/3007611

■関連情報
参照リンク:http://nymag.com/thecut/2014/02/normcore-fashion-trend.html

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