■もう「商売」は響かない

 消費の意思決定はネットの登場で大きく変わろうとしている。なかでもファッションの消費は、その時々の時代精神の反映でもあるので、変化も顕著だ。インターネットでファッションを販売するという、以前なら無謀とも思える試みに挑戦し、今や日本最大のファッション・イーコマース・サイトとなった「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイは、インターネットとファッションの関係を語る上で最も重要な存在と言えるだろう。

 スタートトゥデイはSNS機能を持たせた新サービス「WEAR」を今夏開始することを、前澤氏自身のTwitterを通じて5月に発表しており、6月6日にはティザームービーも公開されている。また、7月16日には、オンラインストアを作れるサービス「STORES.jp」を運営するブラケットの全株式を取得し完全子会社化することを発表するなど、今年に入っても矢継ぎ早に新たな取り組みを始めている。インターネットが先導するファッション消費の未来について、同社の前澤社長に幕張の本社で話を伺った。

「ZOZOTOWNは作為的にトレンドを作らないし、発信もしないようにしよう、と思っているんです。抱えているブランド数も多く、会社にはスタッフが約1000人もいます。それぞれの趣味嗜好があるなかで、ZOZOTOWNとして“こういうファッションがいいと思う”といったひとつの意見をもつことは、もうなくなりつつあります。だから、あくまでも大きなプラットフォームであって、そこに集まる人たちが作っていけばいい、そこに来る人たちの動きだけでトレンドやムーブメントが作れられればいい、という考え方です。そのための仕組みとして、今は商品を展開するだけではなくて、全国のショップスタッフがZOZOTOWN上でコーディネート提案ができたり、ZOZOPEOPLEでブログが書けたりというソーシャルメディア的な機能も持たせている。我々が仕掛ける発信は、年に二回の大きなセールのタイミング、あとは大きいイベントごとぐらいで、もうあまり細かい発信はしていないんです」

 多くのオンラインショップで見受けられてきたような、売り手の基準で作る「おすすめ」や「○○特集」のような仕掛けを行わない理由を、次のように語る。

「以前は、限られたターゲットに対して、限られた情報を発信することで、マッチングが上手くいっていたんです。しかし、いまターゲットの母数が500万人を超えてきて、ブランドも2000以上を扱っています。すると、特定のブランド群を特定のターゲットにアピールすることが、すごく難しくなるんです。ミスマッチが起きやすく、ZOZOTOWNのトップページという限られたエリアで、限られたターゲット向けに何かをやることは、段々難しくなっているんですね。将来的には、全ての人にZOZOTOWNが違う形に見えてもいいと思いつつ、しかし、まだそこまで分析しきれていないのも事実。また、意外とZOZOTOWN側が編集したものや発信したものにニーズがないというのが現状ではないかと思います」

 この自ら発信する事への見切りとも言える決定に確信を持つのは、前澤氏が今のトレンド発信源や人々の購買行動に大きな変化を感じているからだという。

「僕たちは商売をしているから、やっぱり“ものを売る”という発信しかできない。しかし世の中の人は、自分と同じようでいて、ちょっと違う視点を持つカッコいい人たちが、何に注目していて、何をカッコいい、ダサいと言っているか……という生の情報に触れないと響かなくなっています。商売というバックボーン、つまり“ものを売らなきゃ”という考えに基づくものは、結局そのためだけの発信になってしまうので、お客さんに響かなくなってきているんです」

 現在、スタートトゥデイは労働時間6時間、就業時間は午前9時から午後3時という革命的な働き方を打ち出している。その根本には、会社そして自分たち自身の働き方への見直しがあるという。

「いきなり6時間労働にして、会社は大丈夫かと全ての経営者が思うでしょう。しかし、本来経営者がやるべき仕事は、働いている人たちを幸せにすることだと思うし、それなくして業績を上げても、彼らの人生が台無しになっていたら意味がない。お父さんたちが毎晩遅く家に帰って、子どもとも遊べず寝るだけで、電車の中ではうつむき加減というのが今の社会。それを根本から変えるには、人生における働くことの意味合いや、単純に時間感覚を変革してあげないと良くならないと僕は思うんです。働いている側が不幸になっていると、それはいずれお客さんにも伝わってしまうはずです。インターネットというのはそういうのが伝わりやすい世界なんです」