【3月16日 東方新報】「ネットでバズっている人は、勉強したことがないのに人気もあって、大学を卒業した人より数百倍も稼いでいる。今、彼らの映像の撮り方やライブ配信のやり方を覚えようとしているけど、将来は大学を出るよりずっと役にたつ」

 そう話すのは、中国・安徽省(Anhui)に住む中学生。ショート動画にハマっている。同級生の多くも彼と同じような考えだという。

 中国では日本以上にショート動画が人気だ。ショート動画の配信サービスは、日本ではティックトック(TikTok)がよく知られているが、中国ではそれ以外にも次々と誕生し、勢いのある新たな産業の一つに成長した。だがスマホの普及やネット環境が整備されるに従って、そうした動画配信サービスやスマホのゲームに、事の善悪がまだ判断できない未成年者が中毒になってしまうという事態が問題視されている。

 ある母親は、学校や家との連絡に便利かと思って子どもにスマホを買い与えたら、子どもは家にいる間はずっとショート動画を見て、言うことを聞かなくなり宿題もやらなくなったという。成績は当然下がってしまうだろうし、それ以上に、彼女はショート動画の出演者たちが好んで使う、聞くに堪えないような下品な言葉遣いや、人をののしる言葉などを子どもが覚えてしまうことを心配している。

 確かに一部のショート動画には、あまり健全といえない暴力的な内容や性的な内容も含まれている。

 未成年者への悪影響を減らそうと、動画配信サービスの側も、アクセスできる内容に制限をかけるべく、実名登録や年齢認証が必要な未成年モードを設けるが、ネット上で偽りの身分が売買できるなどの抜け道がある。そこまでしなくても、親の身分で登録してしまえば、元も子もなく、効果は限定的。本質的な問題解決には更なるアイデアが必要だ。

 こうした動画配信サービスやスマホゲームの中毒は、保護者の監視の目が届きにくい農村部の「留守児童」たちにとって一層深刻になっている。

 留守児童とは、両親が違う土地や都市部に出稼ぎに出てしまうなどして、農村に取り残された子ども達を指す。祖父母が面倒を見る場合が多い。

 留守児童の実態を調査研究している武漢大学(Wuhan University)の夏柱智(Xia Zhuzhi)准教授のチームが河南省(Henan)、湖北省(Hubei)、湖南省(Hunan)で行ったアンケートによれば、留守児童の40.4%が自分専用のスマホを持ち、49.3%は年長者のスマホを使っていた。つまり9割近くの留守児童がスマホを使える環境にあった。

 ネットを利用した主な娯楽として、69%がショート動画の鑑賞、33.1%がゲームだった。保護者の67.3%が自分の子どもをスマホ中毒とみなしていた。

 こうした現象の前提に、農村にもネットが普及した点がある。数年前の農村では、数少ないWi-Fiが使える場所に、子どもたちが集まってしゃがんでスマホのゲームなどをしている光景が普通だったが、今では農村でもほとんどの家庭にWi-Fi(ワイファイ)があり、ネット環境へのアクセスが容易になった。

 そうした環境の中で、留守児童の場合、監視の目が行き届かない現実がある。

 子どもを世話する祖父母は、農作業に出る人もいる。1日中、子供を見張っているわけにもいかない。スマホ中毒への危機意識がなく、「子守り」替わりにスマホを与えている人も多い。

 同チームのリポートは「祖父母はしつけをせず、孫の不適切な行動を見つけても妥協し、寛容になる傾向がある」と指摘する。

 農村で孫と共に暮らす66歳の女性は、孫がいつもWi-Fiのある親戚の家に行って遊ぶので、自宅にもWi-Fiを入れた。すると孫は、休暇の時は家でスマホをいじり、学校が始まる直前になってあわてて宿題をするようになった。午前1時、2時まで遊び、朝は起きて来ない。食事さえスマホをいじりながら食べるようになってしまった。当然、学校の成績は下がる。それでも孫の気分を損ねたくなく、口出しできないのだという。

 ある保護者は「運動もしないし、親戚回りも嫌がる。新年の挨拶に行くよう言ってもスマホを持っていくし、家族みんなで遊びに行こうとしても彼は行かずに家でゲームをやりたがる」と嘆く。

 学業への影響は深刻だ。保護者の58.5%は「スマホが成績に悪影響を与えている」と考えている。多くの生徒たちが週末2日間はスマホで徹夜をし、登校日には学校でぼんやりとし居眠りをしている状態。同チームのリポートは、スマホ中毒が向上心や勉学への興味を失わせる理由について、「忍耐力や複雑な論理的思考が必要な勉強に比べ、ショート動画やスマホゲームが短時間で満足感や娯楽感が得られるように設計されているからだ」と分析する。

 また、ネットの影響によって留守児童たちの価値観が、享楽的で物質至上主義、拝金主義の傾向がある。子どもたちは、ネット上で言われていることが正しく、「先生や親たちは何もわかっていない」と考えてしまうのだという。
もちろん視力や体力への悪影響も無視できない。

 今や、ネットやスマホに全く触れずに生活することの方が難しい。その害から未成年や留守児童を保護するためには、社会全体の知恵と協力が試される。(c)東方新報/AFPBB News