【7月19日 People’s Daily】安徽省(Anhui)合肥市(Hefei)にある中国科学技術大学「機械化学者」研究室では、新たな研究手法が注目を集めている。ここでは、研究者が忙しく動き回る姿はなく、操作台の間を自在に動き回る1台のロボットが作業を行っている。
このロボットを利用して、中国科技大の江俊(Jiang Jun)教授のチームは、55万種類の金属配合の中から最適な「高エントロピー触媒」をわずか5週間で特定した。しかも、このプロセスにはなんと、1万6000件の論文の読解、2万組の理論計算、200組の全プロセス機械実験データ分析が必要とされた。
このような膨大な計算量を、いったいどうやって短期間で完了できたのか?
その秘密は、実験室の近くの「合肥先進計算センター」にあった。
「合肥先進計算センター」に到着すると、まず目に入るのは淡い青色の巨大な立方体だ。ガラス張りの巨大な立方体の中には、「巢湖明月(Chaohu Mingyue)」と名付けられた、上下4層、合計200平方メートル余りの面積を占めるスーパーコンピュータが収まっている。
「合肥市ビッグデータ資産運営・多元計算サービスセンター」の張雲蕾(Zhang Yunlei)主任の話によると、このスーパーコンピュータには光通信対応のサーバー(計算ノード)が1500台以上搭載されており、その計算能力は「12ペタFLOPS」すなわち毎秒「1.2×10の16乗」の演算が可能だという。
張主任は「中国の人口は14億人余りだが、全員が毎秒1回の計算を行うとすれば、『12ペタFLOPS (1.2億億回)』の計算を完了するには約100日かかる。しかし、我々のコンピュータはそれをわずか1秒で完了できる」と説明する。
「計算力」とは、その名の通り計算能力を指し、計算装置が単位時間内に処理できる情報データの量を表す。デジタル経済時代において、データは重要な生産要素となり、計算能力はデータの分析、加工、処理を通じて、経済のハイレベルな発展を推進する新たなエンジンとなっている。
研究開発分野だけでなく、今や計算能力は生産や生活と密接に結びついている。近年、合肥市は計算能力を軸にした新たな産業分野を積極的に開拓し、国産GPU(汎用高速演算プロセッサ)を1万枚規模で搭載した中国初の次世代型コンピューティング・クラスターを整備するなど、経済の高度化を力強く推し進めている。
「巢湖明月」スーパーコンピュータは2021年6月に、正式に稼働を開始した。23年には「合肥市ビッグデータ資産運営」社が将来を見越して100ペタFLOPS級の計算センターを建設し、さらに「科大訊飛(アイフライテック、iFLYTEK)」と共同で、国産GPUを1万枚規模で搭載した3000ペタFLOPS級の大規模計算クラスターを建設した。
同社の屠冉(Tu Ran)総経理の話によると、同社は昨年、計算力クラスターに3台の量子コンピュータを配備し、全国初となる量子計算とスーパーコンピューティングを統合した「量子・スーパー融合型計算センター」の構築に向けた取り組みを進めたという。
現在、「巢湖明月」次世代の計算能力クラスターの骨格が徐々に形成されつつある。
合肥市に本部を構える自動車メーカー・安徽江淮汽車集団(JAC)の研究開発センターでは、研究スタッフがデジタルツイン技術を用いて自動車の衝突シミュレーションを行い、高速衝突時の各パーツやダミー人体の損傷状況を分析している。
このような試験は過去には実車衝突実験に依存しており、大変時間がかかるものだった。現在では計算能力クラスターを活用したシミュレーション分析を先に行い、大量の関連データを取得した後に実車衝突検証を実施することで、研究開発期間を30%以上短縮し、研究開発効率が大幅に向上したという。
新エネルギー車、バイオ医療、環境監視など、「巢湖明月」次世代計算能力クラスターの展示ホールに足を止めると、計算能力が産業の発展をサポートしている事例が次々と目に入り、並べられたシミュレーション応用シーンや研究開発製品が深く印象に残る。
関係者の話によると、21年6月の稼働開始以来、「巢湖明月」次世代型計算能力クラスターは科学技術イノベーション、産業発展、福祉行政など多岐にわたる分野でサービスを提供し、700を超える研究機関、6000近いユーザーを支援してきた。
累計で34億7000万コア時に相当するCPUリソースと、1億5600万カード時分のAI向けGPUリソースを提供し、1000万件を超える計算タスクを処理したという。
屠総経理は「現在では、国家スーパーコンピューティング・ネットワーク(国家超算インターネット)に接続することで、江蘇省、浙江省、上海市、四川省など全国14の省・市・自治区にある20以上の国家級スーパーコンピューティングセンターの演算資源を統合的に活用できるようになった」と説明する。
今年に入り、合肥市は「都市計算資源プール計画」をアップグレードし、全国各地の国産計算資源をさらに集合させている。現在「合肥市ビッグデータ資産運営」社が直接管理する計算リソースは、何と2万ペタFLOPSに迫る巨大なものになっている。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews