国際海事紛争を解決する中国の裁判所

07月03日 16:30


今回の海事紛争の審理チーム(提供写真)。(c)PeopleʼsDaily


【7月3日 Peopleʼs Daily】マレーシアのバトゥバハット近郊のマラッカ海峡で、2隻の外国籍船舶が衝突事故を起こした。5か国が司法管轄権を有する「選択の難題」に直面した中、当事者の外国海運企業2社は中国の法院に信頼を寄せ、自主的に「中国寧波海事法院」の管轄を選択し、中国法の適用を求めた。

 これは一体どういった経緯なのか?また、問題は円満に解決されたのか?

 これについて人民日報記者が取材を行った。

 世界有数の混雑海域であるバトゥバハット近郊のマラッカ海峡内で2022年9月27日未明、マーシャル諸島グローバル社(Global Ship Lease)」所属のリベリア船籍のコンテナ船「グラニア号(Grania)」が時速7ノット(時速1852メートル)でマレーシアのある港に向かっていた。

「グラニア」号と並走していた「マーシャル諸島財富社」に所属するパナマ船籍のオイルタンカー「Zephyr I(中国語表記では某風号或いは和風号)」が、突然「グラニア」号に向かって進路を変更した。「グラニア」号は直ちに緊急措置を講じたが、時すでに遅く、大きな音と共に両船は衝突した。

 この事故により、両船には重大な損傷が発生した。衝突事故発生後、両船はまずマレーシアで荷おろしを行い、「グラニア」号はシンガポールの修繕船ドックに向かい、「Zephyr I」は中国浙江省(Zhejiang)寧波の舟山港(Zhoushan Port)の某造船所で修理を受けることになった。

 グローバル社は損害賠償を求めるため、寧波海事法院に対し、修理中の「Zephyr I」の差し押さえを申請し、その後訴訟を提起した。「財富社」に対して船体損害、運行遅延損害など合計人民元5810万元(約11億7304万円)余りの賠償を請求した。

 これに対し「財富社」は同院に反訴を提起し、各種損害賠償として人民元3811万元(約7億6944万円)余りの賠償を請求した。

 本件の注目すべき点は、訴訟金額が大きい点だけでなく、多くの国にまたがる国際的な要素が多い点である。パナマは「Zephyr I」の船籍国、リベリアは「グラニア」号の船籍国、中国は船舶の差し押さえ地、事故発生地はマレーシア海域、マレーシアの港は両船舶の衝突事故発生後の最初の到着港、マーシャル諸島は両社の登録所在地だ。

 寧波海事法院の杜前(Du Qian)院長が自ら裁判長としてこの事案を審理した。杜氏の話によれば、中国の海商法と関連する国際公約に基づくと、マレーシア、マーシャル諸島、パナマ、リベリア、中国の5か国の複数の裁判所が本事案の管轄権を有していた。このような状況下で、当事者である外国の海運企業2社は自主的に寧波海事法院の管轄を選択した。

 5か国の複数の裁判所が管轄権を有する時に、なぜ中国の海事法院が選ばれたのか?

 グローバル社の代理弁護士・童登勇(Tong Dengyong)氏は「以前の事案で、船舶差し押さえ手続きが半日で完了したことがあり、寧波海事法院の効率性に深い印象を受けたからだ」言っている。

 また、寧波海事法院は国際船舶衝突事件の審理に豊富な経験と専門性を有し、効率的である点も、当事者双方が中国の法院を第一の選択肢とした重要な要因だったようである。

「審理の過程で、当事者双方が中国法と海事司法に対し信頼感を抱いていると感じられた」、杜氏はこう話している。

 杜氏は「衝突事故の責任と損害賠償の負担は、双方の核心的な争点だった」と言う。

 審理以前には事故責任の割合に関する権威ある認定がなされていなかったため、訴訟手続きに入った後、この点に関する双方の合意を促すため、複数回にわたって協議と調整を繰り返し、最終的には大連海事大学海事鑑定技術研究センターに、事故経過と両船舶の衝突責任の割合の分析鑑定を依頼することになった。

 そして鑑定機関は、グローバル社と財富社が1対9の割合で事故の責任を負うべきだと判定した。審理チーム(裁判官団)は最終的にこの判断を採用した。

「Zephyr I」の船員が追い越し中の最小接近距離のタイミング選択が不適切であり、舵装置の操作に不慣れで、緊急措置が不適切だったことが衝突事故発生の主原因であると判定した。

 一方「グラニア」号は追い越された側として、見張りを怠ったため、「Zephyr I」の制御不能状態を即時に発見できず、衝突を回避するための有効な措置を早期に講じられなかったことが事故発生の二次的な原因であるとした。この判定に基づいて、「Zephyr I」と「グラニア号」がそれぞれ衝突事故の90パーセントと10パーセントの過失責任を負うものと判決した。

 財富社側は当初、この判決に同意しなかったという。審理チームは開廷前と開廷後、双方の弁護士と対面での調整を行い、また「中国海商法」や「72年国際海上衝突予防規則条約(72年COLREG条約)」など関連する条文について詳細な分析を進め、鑑定機関の専門家を出廷させて質問に対応し、鑑定意見の合理性をさらに詳細に説明させた。

 そのような過程を経て、最終的に当事者双方が納得する結論に至ったという。

 船舶の構造が複雑でパーツが数多くあり、双方が提出した修理費用の明細は膨大で、関連項目は千件以上に及んだ。審理チームは双方を対象に項目ごとの照合と証拠の検証を実施し、双方の意見が対立する項目については、当事者に追加の証拠提出や合理的な調整を求め、各々の損害額が確定された。

 財富社は昨年6月26日、グローバル社に人民元3400万元(約6億8646万円)余りとその利息を支払い、本件は無事解決に至った。

 財富社側の代理弁護士・徐全忠(Xu Quanzhong)氏は「審理の過程で、裁判官は私たちと緊密な連絡を保ち、電話や対面での交流を数十回行い、案件の法的な要点と事実関係を深く分析し、最終的に合法的で公正な判決を下した。担当裁判官の真剣で責任感のある仕事ぶり、国際法規の権威を堅持し擁護する姿勢が、中国海事司法の国際的な影響力と信頼性を示し、中国の良好な法治環境を明かにした」と話している。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews