「プリンセス・マサコ」、著者が語る日本の実態 - オーストラリア

04月15日 19:28


写真は20日、オーストラリア・シドニーにて撮影。同書の著者であるベン・ヒルズ(Ben Hills)氏。(c)AFP/Anoek DE GROOT


【シドニー/オーストラリア 21日 AFP】オーストラリア人ジャーナリスト、ベン・ヒルズ(Ben Hills)氏が出版した、日本の皇室について書かれた本が議論を巻き起こしている。日本政府が同書に対し検閲を行ったことについて、著者本人は「検閲は裏目に出るでしょう。そして、同書はハリーポッター以上の話題を呼ぶだろう」と述べた。

■日本では出版の見送りが決定

 その調査力が高く評価されているジャーナリストのヒルズ氏は「この本を検閲しようとすればするほど、日本政府は国際的に恥をさらすことになるだろう」と述べた。同氏は、皇太子妃雅子さまの経歴についてまとめた「Princess Masako:Prisoner of the Chrysanthemum Throne(直訳:プリンセスマサコ、菊の紋章の囚人)」を執筆し、キャリアウーマンから皇太子妃になった雅子さまに対する皇室の抑圧を浮き彫りにした。

 しかしながら、この本に対し、皇室や外交関係者達からの批判や、謝罪を求める声が上がったのは言うまでもない。これを受けて日本の大手出版社は先週、同著書の日本語版を出す決定を見送った。ヒルズ氏はこの皇室の混乱自体が火に油を注ぐ原因となるだろうと指摘する。アマゾンジャパンのオンラインショップ上の洋書コーナーでは、近日発売予定の「パリーポッターと死の秘宝(仮題)」の発売前予約や水着のグラビア誌以上に、売り上げを伸ばしているという。

■今や国際的ベストセラー

「今や私はパリーポッターや水着の女の子よりも人気者なのです。日本政府の試みは見事に裏目に出ましたね」と、ヒルズ氏は記者に述べた。「もともとは、あまり話題になっていたわけではなかったのに、逆に政府が注意を引きつけたゆえに、今や国際的なベストセラーとなったのです。このような形で著作物を検閲するというのは、全くおかしなことだと思います」

 同氏は1992年から1995年にかけて、シドニー・モーニング・ヘラルド(Sydney Morning Herald)やメルボルンズの地元紙エイジ(the Age)の東京駐在特派員として滞在した経験を持つ。同書が禁止されるという予想はしていたものの、やはり残念だとコメントをした。「もうだいぶ前から、日本政府や皇室に批判的な著作物は検閲される傾向があったのです」

■関係者が外国人記者に語った秘話続々

 64歳のヒルズ氏は、60以上もの国で海外特派員として働いてきた。国際銀行の詐欺事件についての報道でピュリツァー賞に値する豪州のWalkley賞の表彰を受けている。今回の書籍には12か月間の調査期間を要した。そして、60以上にも及ぶインタビューを皇室研究者や関係者に対し行い、その後6か月間の執筆を経て、本は刊行に至った。インタビューを受けた関係者達は、国内の記者よりも、海外のジャーナリストに対して内部の様子を語るほうが、安堵(あんど)感があるという。

「私のインタビューに応えてくれた方の中には、絶対に国内のメディアには発言をしないという方もいました。率直な意見を聞くことができました」と、ヒルズ氏は述べる。 「しかし、関係者達が遠慮なく意見を述べたことで、官僚らが本を禁止する動きに出た。これが問題なのです」と付け加えた。

■デリケートな問題を浮き彫りに

 シドニー出身の著者は、当人の雅子さまや皇太子さまとの接触は皇室が厳禁しているため、不可能であると述べている。また同氏は、本質的な問題に触れることなく、やみくもに検閲を主張する日本の役人たちの態度は逆効果であり、雅子さまが皇室内のいじめや孤独感から、衰弱するに至ったという事実を強調していると言う。また皇太子さまのお子様である愛子さまを、体外受精によって出産されたことを同氏は本に載せた。このことが既に公に報道されていたにもかかわらず、同氏の著書への掲載は役人たちの気分を害したようだ。

「どうしてこのようなことが争論を巻き起こすのか、全く分かりません。多分これは皇太子さまが生殖的な問題をお持ちで、それがイメージを悪くするからかもしれませんが」と、ヒルズ氏は述べた。日本の読者はそれぞれ自由に意見を持つ権利があると主張するヒルズ氏。そしてこの問題は、先進国でありながら厳しい検閲制度を持つ日本の実態をはっきりと示している。

「表面上は、礼儀正しい言葉遣いやお辞儀の習慣などベルベットのように上品で穏やかな顔を持つ皇室ですが、実はその中身は問題があればすぐに飛び出す鉄のこぶしのような構造を抱えています。そして今回はそのこぶしを私に使ったのです」と、ヒルズ氏は語った。

 写真は20日、オーストラリア・シドニーにて撮影。同書の著者であるベン・ヒルズ(Ben Hill)氏。(c)AFP/Anoek DE GROOT