中国で増える「シニアインフルエンサー」
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【10月9日 CNS】カメラの前に立つのは、白髪の高齢女性。カーキ色のワークベストを身に着け、たくさん付いたポケットから次々と小道具を取り出す姿は、まるでドラえもんの「四次元ポケット」のようだ。どこにでもあるピーナツやつまようじも、彼女の手にかかれば、倒れにくい安定したバランスの仕組みを説明する実験道具に早変わりする。
彼女は上海市・同済大学(TongJi University)の元教授、呉於人(Wu Yuren)さん。中国の短編動画アプリ「抖音(Douyin)」で、身近な道具を使った物理実験を紹介している。現在、アカウント「不刷題的呉姥姥(問題集を解かない呉おばあちゃん)」のフォロワーは500万人を超える。
中国のSNSでは今、スマートフォンを手に日常生活を発信し、自分らしさを表現する「シニア世代」が増えている。呉さんのような高齢のクリエーターが、抖音や快手(Kuaishou)、小紅書(Red)などで活躍している。
70代の元アーティスティックスイミングコーチがファッション系インフルエンサーに転身したり、62歳の元外資系企業の人事担当者が心のケアについて発信したり、64歳の元ミサイル整備技術者がインターネット上でトークショーを披露したりするなど、その活動は多彩だ。こうした「シニアインフルエンサー」は、それまでの生活の枠を飛び出し、短編動画を通じて新たな活躍の場を見つけている。
86歳の徐淑蘭(Xu Shulan)さんは、農村での日常を発信して人気を集めた。孫の協力を得ながら、昔ながらのもち米菓子「江米条」の作り方や、キュウリとゴーヤの育て方、畑仕事の様子などをインターネットで紹介している。
何気ない農村の日常が多くの若者を引き付け、抖音のフォロワーは現在1480万人近くに達している。視聴者が楽しみにしているのは料理や農作業だけではない。祖母と孫の温かな交流や老夫婦のほほ笑ましい言い合い、何世代もの家族が一緒に過ごすにぎやかな日常も人気を集めている。
天津市(Tianjin)の高齢者向けコミュニティーでは、数人の高齢者が短編動画を「連続ドラマ」のように制作している。人気アカウント「椿萱茂里的春天」に登場するのは、91歳の余さん、80歳のカールさん、73歳のアリスさん、63歳のボブさんだ。
中学校の制服を着て教師や生徒に扮し、年長者が若者に説教するようなスタイルではなく、ユーモアあふれる言葉で現代社会に不安やストレスを抱える若者たちを元気づけている。老いや死さえも笑いの題材にして、人生を明るく語る。2026年までに同アカウントのフォロワーは各プラットフォーム合計で300万人を超え、動画の累計再生回数は1億回を突破した。
統計によると、抖音ではフォロワー400万人を超える60歳以上の人気「シニアインフルエンサー」が20人以上いる。中でも「我是田姥姥(私は田おばあちゃん)」のフォロワーは3000万人を超える。こうした数字からも、中国の高齢者がインターネットを見るだけの存在から、コンテンツを発信する新たな担い手へと変わりつつあることがうかがえる。
中国インターネット情報センター(CNNIC)のデータによると、2025年12月時点で、中国の60歳以上のインターネット利用率は53.7%に達した。スマートフォンや微信(ウィーチャット、WeChat)、短編動画は、ますます多くの高齢者にとって日常生活に欠かせないツールとなっている。中国の60歳以上のインターネット利用者は1億6100万人に達しており、こうした巨大なシニアネットユーザー層が、多くの「シニアインフルエンサー」が登場する土台となっている。
また、政府や企業も、高齢者がインターネットを利用しやすい環境づくりを進めている。中国政府はこれまでに、高齢者や障害者がインターネットサービスを利用しやすくするための取り組みを実施し、ウェブサイトやモバイルアプリの高齢者向け設計基準や評価制度を整備してきた。
2013年には華為技術(ファーウェイ、Huawei)や小米科技(シャオミ、Xiaomi)傘下のRedmiなどが、スマートフォンに高齢者向けモードを導入し、高齢者向け端末を1000元(約2万3500円)以下の価格帯で展開した。小紅書などのSNSも、文字の拡大や音声読み上げ、操作の簡略化といった高齢者向け機能の改善を進めている。地域コミュニティーや高齢者大学、公益団体なども、高齢者を対象にスマートフォンなどのデジタル機器の使い方を教える講座を開いている。
現在では、「シニアインフルエンサー」は企業からも「シルバー経済」への新たな入り口として注目されている。推計によると、中国の高齢者向け消費市場は2025年に9兆5000億元(約223兆2528億円)に達し、2035年にはシルバー経済の市場規模が30兆元(約705兆90億円)を突破する可能性がある。一部の人気シニアインフルエンサーは、ライブコマースや広告への出演のほか、旅行、ファッション、高齢者向けサービスなどのプロジェクトにも参加し始めている。(c)CNS/JCM/AFPBB News