【三里河中国経済観察】宇宙計算力、中国各地で加速
このニュースをシェア
【7月15日 CNS】中国では今、宇宙を舞台にした新たな戦略が加速している。
6月には、北京宇宙スマートコンピューティング研究院が設立されたほか、天津市(Tianjin)では「宇宙デジタル・インテリジェント基盤共同研究組織」が発足し、上海市では宇宙計算力産業エコシステムパートナー計画が始動した。各地が相次いで力を入れているのが、「宇宙計算力(スペース・コンピューティング)」だ。
では、宇宙計算力とは何か。国研新経済研究院の朱克力(Zhu Keli)院長は、「地上のデータセンターやAI計算ユニットを低軌道に配置し、宇宙でデータを収集・演算・解析し、その結果を地上へ送る新しい宇宙デジタルインフラだ」と説明する。簡単に言えば、「データセンターを宇宙へ移し、宇宙で計算してから地上へ送る」仕組みである。
背景には経済性がある。従来の人工衛星はデータを収集して地上へ送信し、その後に解析するため、処理には数時間から数日を要し、データ利用率も10%未満だった。一方、宇宙計算力では軌道上でリアルタイムにデータを処理・解析し、必要な結果だけを地上へ送ることで、通信帯域の使用量を90%以上削減できる。「宇宙で収集し、宇宙で計算し、宇宙と地上が連携する」新たな方式だ。
業界では、宇宙計算力はインターネットやクラウドコンピューティングに続く次世代インフラになる可能性があるとみられており、2030年には世界の宇宙経済市場規模が1兆ドルを超えるとの予測もある。
AIの急速な普及に伴い、地上のデータセンターでは用地不足や電力消費、冷却コストなどが課題となっている。一方、宇宙空間は太陽光エネルギーを継続的に利用でき、低温環境による自然冷却も可能で、理論上は電力使用効率(PUE)が1に近づき、ほぼゼロカーボンのグリーン計算力を実現できるとされる。
コスト面も改善が進む。かつて最大の課題だった建設コストについては、試算では約15年で地上データセンターと同水準になるとされる。
米スペースX(SpaceX)のイーロン・マスク(Elon Musk)氏も、この分野の将来性に注目している。同社は上場を前に、第1世代AI計算衛星「AI1」の技術仕様を初めて公表し、2030年までに年間100ギガワット規模の宇宙AI計算力を展開する計画を明らかにした。上場後の時価総額は2.1兆ドル(約338兆4570億円)まで拡大し、その背景には宇宙計算力の商業化への期待があると分析されている。
世界でも開発競争は激しさを増している。米国ではグーグル(Google)やアマゾン(Amazon.com)、エヌビディア(Nvidia)などが関連分野へ参入し、ロシアは「スフェラ(Sfera)」衛星コンステレーションの計算力強化を進め、日本も地球観測データの軌道上処理に取り組んでいる。
中国もすでにこの分野で先行している。中国情報通信研究院の専門家によると、中国は現在、宇宙計算力分野で世界の第一グループに位置しているという。工業・情報化部もこのほど、宇宙計算力技術の先行研究を支援し、関連産業を計画的に発展させる方針を示した。
各地の取り組みも特色がある。北京市は衛星搭載AIチップや衛星間レーザー通信、宇宙エネルギー・放熱技術、天地一体型ネットワークなどの基盤技術を重点的に研究。天津市は国家スーパーコンピューティングセンター天津を中心に、宇宙と地上の計算力を融合する基盤づくりを進めている。上海市は「星枢計画」を打ち出し、世界規模の宇宙AI計算ネットワークの構築と産業化を目指す。杭州市(Hangzhou)では之江実験室が主導する「三体計算衛星コンステレーション」が、世界で初めて衛星間ネットワークを実現した宇宙計算衛星群として、天体観測や気象予報などへの活用を進めている。
朱氏は、各地がそれぞれ異なる強みを生かして宇宙計算力産業を発展させることで、役割分担と相互補完が進み、新興産業で起こりがちな同質化競争や資源の重複投資を避けられていると評価する。
宇宙計算力をめぐる競争はすでに始まっている。今後の焦点は、誰が最初にその構想を実用化し、産業として軌道に乗せるかに移っている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News