【6月5日 AFP】英国でシーク教徒(インドで始まった宗教)の男に刺された被害者の白人学生が、警察に手錠をかけられた上、加害者に人種差別発言をしたというぬれぎぬを着せられて死んでいく映像が公開され、警察の対応に内外で激しい反発が広がる中、キア・スターマー首相は4日、米実業家イーロン・マスク氏が英国内の「分断をあおろうとしている」と非難した。

警察のボディーカメラの映像には、致命傷を負って横たわる被害者のヘンリー・ノバクさん(18)が警察官に対して「息ができない」と何度も訴える姿が映っている。

ノバクさんは昨年12月、サッカーチームのメンバーと南部サウサンプトンの夜の街に繰り出した際、シーク教徒のビクラム・ディグワ被告(23)に刺された。

ディグワ被告は現場に到着した警察に対し、ノバクさんから人種差別的な侮辱を受けたとして、自分こそが被害者だとうそをついた。

公判中に上映された映像には、警察がディグワ被告の主張を受け入れ、ノバクさんを救護するどころか、「刺されて息ができない」という懇願を無視して手錠をかける場面が映っている。

警察官の一人はノバクさんに「刺されたって? どこをだ?」「お前は刺されてなんかいないだろ」と言い放つ音声も記録されている。

サウザンプトン刑事法院は1日、刃渡り21センチの儀礼用ナイフでノバクさんを刺殺したとして、ディグワ被告に終身刑を言い渡し、仮釈放が可能になるまでに服役しなければならない最低拘禁期間を21年に設定した。

スターマー氏は4日夜、首相官邸でノバクさんの実母、実父、および継母と約1時間にわたり面会した。

その後、スターマー氏は、英国として「分断や憎悪ではなく、団結と進歩を選択しなければならない」と述べ、これこそが「ヘンリーの記憶に敬意を表する唯一の方法だ」と呼び掛けた。

極右勢力はこの殺人事件について、英警察が民族的少数派(エスニック・マイノリティー)を白人よりも寛大に扱う「2層構造の取り締まり」をしている証拠だと主張しているが、スターマー氏率いる中道左派の労働党政権や警察幹部らはこの疑惑を強く否定している。

マスク氏はこの殺人事件への英警察の対応について、Xで何度も言及している。

その中の一つには、「警察が公式方針で、白人を人種差別するよう警察官に求めていること」を皆さんは知っているだろうかという事実に基づかない問いかけもある。

マスク氏はこの殺人事件への対応をめぐり、警察に対する私人訴追の費用を支援する意向を表明したほか、事件に関与したハンプシャー警察を侮辱した。

スターマー氏は記者団に対し、「私たちは国家としてのアイデンティティーを主張する必要がある。マスク氏がここ数日、再びわが国の政治に介入し、分断をあおろうとしているからだ」と主張。

「ヘンリーの事件のような凄惨な事件が起きた時こそ、私たちは彼の家族がそうしたように、冷静に反応しなければならない」と付け加えた。これは、ノバクさんの父親が「息子の死をこれ以上の分断、憎悪、緊張を生み出すために利用しないでほしい」と訴えたことを受けたものだ。

この論争には米国務省も加わり、ノバクさんの家族に哀悼の意を表した上で、「イデオロギー的条件付け(特定の思想を植え付け、無意識のうちにそのイデオロギーに沿った行動を取るように思考を誘導するプロセス)や2層構造の取り締まりは、文明崩壊の明白な兆候だ。西側諸国全体でこれらを拒絶しなければならない」と訴えた。(c)AFP