【3月4日 CNS】卵の殻ほどの小さな面に、北京市で精密加工された工作機械が、髪の毛よりも細い溝を刻み込んでいく。航空エンジンのタービンブレードにも応用できるこの技術は、「頭脳」は北京で設計され、「手」は天津市(Tianjin)で製造され、最終的な機体の組み立ては河北で行われる。企業同士が地域をまたいで協力することで、最先端技術が研究開発から実用化へ移るスピードが一段と上がっている。

2025年末に開かれた中央経済工作会議は、「北京国際科学技術イノベーションセンター」を「北京(京津冀)国際科学技術イノベーションセンター」へと拡大・格上げする方針を正式に打ち出した。これは地理的な対象範囲を広げるだけではなく、発展の考え方そのものを大きく転換する動きだ。京津冀(北京市・天津市・河北省<Hebei>)の「最強の頭脳」が広がることで、どのような新たな原動力が生まれるのか。

近年、北京単独でも国際的な科学技術イノベーション拠点づくりは目に見える成果を上げてきた。北京は「ネイチャー・インデックス(研究都市)」で9年連続世界1位となり、「国際科学技術イノベーションセンター指数」でも4年連続で世界3位に入った。うち科学センター指数は初めて世界1位となり、世界の科学フロンティアに位置づけられている。2025年末時点で北京市内には全国重点実験室が145か所あり、量子情報、脳科学・脳型知能などの先端分野では新たな研究開発機関を10カ所整備している。

一方で、避けて通れない課題もある。京津冀のイノベーション資源は偏在しており、国家実験室や大型研究施設、高水準の研究大学、トップ人材は北京に高度に集中するのに対し、天津と河北の研究力・産業化力は相対的に弱いとされる。

いま、新しい「イノベーションの三角形」が形になりつつある。研究報告によれば、京津冀3地域の研究協力は着実に増えている。2013~2024年にかけて共同論文数は年々大きく伸び、年平均の伸び率は18.6%に達した。協力ネットワークの密度も高まり、北京を中核に、北京―天津を主軸、北京―保定―石家荘を副軸とする構造が形成されている。

役割分担も明確になってきた。北京は基礎研究と源流型のイノベーションを担う「頭脳」としての機能を強め、天津は先進製造の強みを生かして成果の実装・転換の中枢を担う。河北は応用の受け皿として産業の立地空間や実証の場を提供する。

雄安新区の「中関村サイエンスパーク」にはすでに260社以上が集まり、そのうち65%が北京からの企業だという。人工知能や低空経済(ドローンなどの低高度空域を活用する産業)など、特色ある産業チェーンも育ちつつある。また「第14次五か年計画(2021~2025年)」期間に北京から天津・河北へ移転・取引された技術契約の成約額は2300億元(約5兆1111億円)を超え、「第13次五か年計画」期の2倍となった。こうした数字の背後には、研究者やエンジニア、起業家たちの地域横断の協業が積み重なっており、イノベーション共同体が静かに立ち上がっていることを示している。

「北京(京津冀)国際科学技術イノベーションセンター」への拡大により、この世界有数の科学技術拠点は、構想から実体へと加速度的に近づいている。2月10日に開かれた2026年天津市科学技術工作会議では、拡大の機会を捉え、北京の取り組みへの「融合」と外部資源の「誘致」を進め、国家級プラットフォームの誘致・設置、重要な独創的成果の創出、改革施策の先行実験に取り組む方針が示された。

さらに、首都圏の連携を描く「現代化首都都市圏 空間協同計画(2023~2035年)」がこのほど正式に承認された。国家発展改革委の関係者は、センター拡大を契機に「あなたの中に私があり、私の中にあなたがある」形のイノベーションチェーンと産業チェーンを急いで構築し、北京の成果を天津・河北の産業需要により精緻に結び付け、実装・転換を進める考えを示している。

センター拡大の意味は地域振興にとどまらず、世界のイノベーション地図における中国の位置づけにも関わる。サンフランシスコ湾岸や東京湾岸など、世界級のイノベーション拠点はいずれも地域連携を強みとしてきた。北京の源流型イノベーション、天津の先進製造、河北の産業受け皿という組み合わせは、世界級の技術発信地と先進製造クラスターを共同で築く力を持つという見方だ。

2026年は重要な政策の節目になるとみられる。省・直轄市をまたぐイノベーション資源の配分メカニズムが動き出し、技術要素の統一市場づくりが進み、京津冀から新たな技術リーダー企業が次々と現れる――そんな展開も想定される。

2026年の春に立って今後10年、20年を見通すと、「北京国際科学技術イノベーションセンター」から「北京(京津冀)国際科学技術イノベーションセンター」への転換は、単なる名称変更ではない。イノベーションはどのように生まれ、どう広がるのかという認識の飛躍を伴う変化だ。時代の大きな流れの中で、中国のイノベーションは加速している。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News