【2月23日 東方新報】春節(旧正月、Lunar New Year)が近づくと、福建省(Fujian)竜岩市(Longyan)上杭県ではどの家も慌ただしくなり、町に甘い香りが漂い始めるその香りの源が、客家(はっか、中国南部を中心に暮らす、独自の言語と文化をもつ漢民族の一支系)の伝統的な茶菓子「米臘嘗」だ。家族がそろう年の食卓に並ぶだけではない。客家の年中行事の習わしと、土地で育まれてきた記憶が、この菓子には重なっている。

2月4日、立春の日。上杭県臨江鎮東南コミュニティの一軒の家の前では、米臘嘗作りが始まっていた。簡易かまどに据えた大きな鉄鍋に強い火を入れ、乾燥させた炒り米を熱々の塩に振り入れる。すると「パチパチ」と音が弾け、米粒は鍋の中で転がりながら膨らみ、こんがり色づいた米菓になっていく。香ばしい穀物の匂いが立ち上がり、あたりの空気が一気に正月めいてくる。

仕上がりを決めるのは、飴を煮詰める工程だ。麦芽糖と白砂糖を水で溶かし、鍋でゆっくり煮てシロップにする。箸で絶えずかき混ぜながら、色と粘りの変化を経験で見極める。黄金色に澄み、粘りが出て糸を引くようになったら火加減はちょうどよい。「いちばん大事なのは飴を煮ること。糸を引くくらいまで煮ないといけない」。住民の温月蘭(Wen Yualan)さんはそう話す。この「糸を引く」加減が、サクッとしてべたつかず、甘いのにくどくない米臘嘗を作る決め手になる。

シロップができたら、あらかじめ炒って香りを出した米菓に落花生とゴマを加え、そこへ一気に流し込んで手早く混ぜる。熱いうちに型に移して押し広げ、しっかり固める。冷まして形が落ち着いたら切り分け、黄金色で香ばしく、ナッツが詰まった米臘嘗が出来上がる。切り口から甘い香りがふわりと立つ。

米臘嘗は「米臘糖」や「炒米拉」とも呼ばれ、客家地域で古くから作られてきた茶菓子だ。香ばしさと甘み、軽い歯ざわりが特徴で、上杭県では稔田鎮や藍溪鎮などで年越しの風物詩として親しまれてきた。近年は、貯水池建設に伴う移転などで生活の場が広がり、この手仕事も村から町のコミュニティへ受け継がれている。

「移ってきて20年以上になるけど、毎年ちゃんと米臘嘗は作る。これを作ったら、もう正月だよ」。住民の李冬英(Li Dongying)さんの言葉には、暮らしの場所が変わっても習慣が途切れなかった強さがにじむ。作る場所も、かつての土間の台所から、コミュニティの空き地や建物の通路脇へと移った。そこで起きているのは、食べ物が作られるというだけではない。近所の人が自然に集まり、手を動かしながら語り合い、故郷の話で盛り上がる。若い世代にとっても、伝統の手仕事の温度を間近で感じる場になっている。

店にはさまざまな現代的なお菓子が並ぶ。それでも上杭では、手作りの米臘嘗を毎年欠かさない家庭が少なくない。「毎年、受け継いでいかないと。途絶えさせたくない」。温月蘭さんの言葉は素朴だが、芯が強い。古い技を次の世代に渡すことは、そのまま客家文化の土台を守ることにつながる。

ネットと物流が発達し、この「年の味」は遠方にも届くようになった。「娘が福州市(Fuzhou)に嫁いだのだけど、毎年正月になると『お母さん、米臘嘗を少し作って送って』って言うのよ」。李冬英さんは笑ってそう話す。一切れの米臘嘗が、離れて暮らす家族をつなぎ、記憶を呼び戻す。時代が変わっても、客家の正月の香りは、こうして人の手から人へ渡っていく。(c)東方新報/AFPBB News