【1月9日 東方新報】車の購入を検討している中国・山東省(Shandong)済南市(Jinan)の消費者、馬謙(Ma Qian)さんは、最近4S店(ディーラー)に行くたびに複雑な気持ちになるという。「数万元(約数十万〜円)の値下げ」「期間限定の大型優遇」といった宣伝は魅力的だが、「今日買っても明日にはさらに下がるのでは」と考えると、なかなか踏み切れないからだ。

販売現場も厳しい。ある中国系メーカーのディーラー責任者は「ほぼ毎月のように販売目標や価格政策が変わる。車を売るだけでは利益が出にくく、主にアフターサービスや金融・保険で収益を確保している」と語る。消費者もディーラーも苦しい状況は、近年の自動車業界、とりわけ新エネルギー車分野で続く「価格戦争」の激化を象徴している。

こうした背景のもと、中国国家市場監督管理総局は2025年12月12日、「自動車業界の価格行為コンプライアンス・ガイドライン(意見募集稿)」を公表した。業界の価格競争により明確なルールを示し、違法な価格行為を抑止する狙いがあるとして、市場の注目を集めている。

中国の自動車市場は生産・販売規模で世界をリードする一方、過当競争の「内巻き」にも直面している。目立つのは「売上は伸びても利益が伸びない」という構造だ。シェア確保を優先して攻めた値付けが続き、一部車種では採算ラインに限りなく近づき、場合によっては原価割れに近い水準にあるとの見方も出ている。中国自動車流通協会乗用車市場情報聯席分会(乗聯分会)の崔東樹(Cui Dongshu)氏は、こうした競争が企業の利益を削り、研究開発や品質向上の余力を奪うだけでなく、サプライチェーンにも圧力をかけ、部品メーカーの資金繰り悪化や利益の薄さにつながると指摘する。長期化すれば産業全体の競争力を弱め、「悪貨が良貨を駆逐する」恐れもあるという。

ガイドラインは5章28条で構成され、メーカーや販売企業に適法・適正な価格設定を促す。主なポイントは、価格設定で公平性・合法性・誠実性を守り、原価販売や原価割れに警戒線を引くこと、価格表示と宣伝のルールを徹底し、誤認を招く手法を禁じること、直販や代理など新しい販売形態の価格の扱いについて指針を示すことだ。崔氏は、これは値下げを一律に禁止するものではなく、極端で持続不可能な価格競争を抑え、競争の軸を「価格」から「技術・製品・サービス・ブランド」へ戻す狙いがあるとみる。消費者の買い控え心理を和らげ、公平な競争環境を整える効果も期待される。

公表後、比亜迪汽車(BYD)や小鵬汽車(XPeng)などは、ガイドラインを踏まえて価格管理やコンプライアンス体制を強化すると表明した。多くのメーカーも、健全な市場秩序を守り、業界の長期的な発展につながるとして支持を示している。悪性の価格戦争を終わらせ、理性的な成長に向かうべきだという点で、業界の共通認識が広がっていることをうかがわせる。

ただし、ガイドラインだけで過当競争が解決するわけではない。企業は差別化された競争力を築く必要がある。評論家の夏樹氏は、スマートコックピット、自動運転、新世代の電子・電気アーキテクチャ、全固体電池などで技術的な強みを作り、ブランド価値やユーザーとの関係を深め、ソフトウェアサービスなど新たな収益源も開拓すべきだと指摘する。

政策・監督面では、ガイドラインを実効性のある形で整備し、独占禁止や不正競争の取り締まりを強化する必要がある。あわせて、研究開発投資や企業再編、海外展開を促す産業政策で供給側の質を高め、同質化競争の圧力を根本から弱めることが求められる。業界団体による行動規範づくりや、メディア・社会が価格だけを過度に礼賛せず、技術や品質を重視する空気を醸成することも重要だ。

世界の自動車市場は、無秩序な価格競争を経た後、技術・ブランド・サービス中心の高品質な競争に収れんしてきた。価格が唯一の戦場でなくなれば、消費者は技術と品質に安心して対価を払え、ディーラーもサービスで顧客を獲得しやすくなる。今回のガイドラインは、その方向へ進むための重要な一歩となりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News