オンラインから街へ──若者が「実店舗に戻る」理由
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【12月10日 東方新報】中国・福建省(Fujian)福州市(Fuzhou)では、週末になると若い世代が再び街に繰り出す姿が目立つようになった。煙台山の没入型シアターを訪れたり、三坊七巷で無形文化遺産のポップアップを体験したりと、オンライン中心だった消費行動が「街歩き」へ戻りつつある。
この動きを支えているのが、福州市が進めてきた伝統商圏の大規模なリニューアルだ。百年を超える街並みにアニメ調のデザインやAR演出、テーマ型の期間限定店舗を取り入れ、古い商圏を若者が楽しめる空間へと生まれ変わらせている。
◾️体験が中心の新しい商圏づくり
煙台山では、歴史ある洋館群を活かし、二次元カルチャーと地元文化を組み合わせた演出を展開している。ARでの演出や光のショーが特徴で、人気キャラクターとの記念撮影を楽しむ大学生の姿も多い。専門家は、オンラインの利便性だけでは満たされない「体験したい」「誰かと共有したい」という気持ちが、若者を街へ引き戻していると指摘する。そのため福州の商圏は、単に商品を販売する場から、文化やIP(知的財産)を組み合わせて「体験を生み出す場」へと進化している。
没入型シアター「烟山旧」では、観客自身が物語の登場人物として劇に参加する仕組みが人気を集めている。選ぶ役によって展開が変わるため、繰り返し訪れたくなると評判だ。
◾️ポップアップショップと「ちょい飲み」文化の広がり
市内では、短期出店のポップアップショップも急増している。限定感のある空間設計がSNS映えし、東街口の二次元ショップでは若年層が来店者の9割を占める。三坊七巷で期間限定オープンした「茉莉花(ジャスミン)をテーマにしたポップアップ店」は、国慶節の時期に1日3万元(約65万9706円)を超える売り上げを記録した。
さらに、コンビニ「匯宁(Huining)」が導入した「ちょい飲み」サービスも話題になっている。店内にはセルフ式のカクテルコーナーや撮影スポットが設けられ、夜は若者が集う社交の場に。従来のコンビニよりもリピート率が大幅に高いという。
◾️商圏に文化を埋め込み、消費の幅を広げる
煙台山では百棟以上の歴史建築を文化体験の拠点として再活用し、展覧会や音楽イベント、文創市集(クリエイティブ市)を行っている。商業より文化体験を軸に置いた運営が、街を若者文化の発信地として成長させている。また、福州に伝わる伝統装飾「三条簪(さんじょうしん)」が再び注目を集め、写真撮影や文創商品の人気につながっている。伝統文化を現代的にアレンジし、若い世代の日常に取り込む試みだ。
あらゆるものがオンラインで手に入る時代だからこそ、街に出て体験する価値が改めて見直されている。福州は、従来の商圏に新しい体験を組み込み、若者が街へ戻る流れをつくり出している。(c)東方新報/AFPBB News