金融を変えるAIの波
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【11月1日 東方新報】中国の金融業界では、AI導入が急速に進んでいる。大手銀行はデジタル化からさらに一歩進み、人工知能(AI)を中核に据えた業務改革を進めている。
この流れを象徴するのが、中国金融四十人フォーラム(CF40)と清華大学(Tsinghua University)が共催した「2025外灘年次総会」だ。
会議では、交通銀行(Bank of Communications)の副頭取兼最高情報責任者(CIO)・錢斌(Qian Bin)氏が最新のデータを紹介し、AIが金融の仕組みをどう変えているかを具体的に示した。2024年には国有大手銀行全体の技術投資額が1200億元(約2兆5707億円)を超え、技術担当者は10万人に達している。交通銀行では、AIを導入した小口融資審査の自動化や詐欺防止システムの精度向上により、サービス効率は3.5倍に上がり、書類処理時間は7割削減された。
こうした動きは、金融業が「情報産業」から「知能産業」へと進化している流れの一環だ。AIが決済、価格設定、リスク管理、マーケティングなどで活用され、業務構造そのものを変えつつある。中国人民銀行(People's Bank of China、中央銀行)の周小川(Zhou Xiaochuan)元総裁は、「AIは金融の情報処理と自動化を一段高い次元に押し上げる構造的転換だ」と位置づける。
国務院発展研究センター元副主任の劉世錦氏は、AI大規模モデルの応用が金融業を再定義しつつあるとみている。銀行や保険、証券などの分野では、AIが事務処理から融資判断、コンプライアンス審査といった中核業務へと浸透しており、「深度求索(DeepSeek)」や「通義千問(Tongyi Qianwen)」など中国発の大規模モデルが革新を後押ししている。
ただし、AI導入にはリスクも伴う。国家金融監督管理総局の肖遠(Xiao Yuan)企副局長は、モデルの安定性やデータ管理に加え、意思決定の画一化に注意が必要だと警鐘を鳴らす。「同じデータやモデルを使えば、業界全体の判断が似通い、『共振』を起こす危険がある」と指摘した。
一方で、AIの発展を止めることもまたリスクとされる。錢斌氏は「発展が遅れることこそ最大のリスクだ」と述べ、AIを国家競争力を左右する戦略的技術と位置づける。基盤となる通信やデータの安全性を確保しつつ、リスク管理を強化することが不可欠だとした。
AIの進化は金融を超えて、製造や交通、物流など幅広い分野へ波及している。上海交通大学(Shanghai Jiao Tong University)AI学院副院長で穹徹智能(Neomatrix)の盧策吾(Lu Cewu)CEOは、「中国のAIの飛躍は、産業・研究・人材・政策の長年の蓄積が一気に開花した結果だ」と話す。北京大学(Peking University)の黄益平(Huang Yinping)院長も「AIは新しい産業機会と需要を生み出す経済成長の原動力になる」と指摘した。
中国ではいま、AIが金融を支える仕組みそのものを変えつつある。単なるツールとしてではなく、人と機械が共に動く新たなエコシステムへ――その流れはすでに始まっている。(c)東方新報/AFPBB News