【4月28日 CNS】デジタル映像のなかで、中国の古典書「山海経」に登場する神獣が「再生」される瞬間に立ち会い、AIの「魔法の鏡」の前でサイバーチックな写真を撮る——。そんな没入型の展示体験が、いまや美術館に限られたものではなくなっている。「デジタル+アート」が、中国の商業施設に新たな魅力を加えている。

 北京市朝陽区の「朝外UIC(都市活力イノベーションセンター)」にある「MADverse摩境デジタルアートスペース」に足を踏み入れると、未来感あふれる装飾が目を引く。来場者は大型スクリーンで流れる没入型ショーを楽しみながら、スマートフォンで写真や動画を記録している。飲食エリアにはコーヒーやミニバーガーなどの軽食が用意され、グッズ販売コーナーではオリジナルIP(知的財産権)キャラクター「麦皮」「麦乖」のバッジや帽子に加え、新進アーティストとのコラボ商品も揃う。この2100平方メートルのデジタルアート空間はオープン直後から人気を集め、北京の新たな「注目スポット」となっている。スタッフの張妍(Zhang Yan)さんによると、「音楽、アート、デザイン、飲食の融合スタイル」が注目を集め、他の商業施設からの視察や相談も増えているという。

 北京の有名商業エリア・王府井大街にある「北京百貨大楼」も、早くからデジタルアートを取り入れている。昨年開業した「EDCC藝雲デジタルアートセンター」では、生成的人工知能(AIGC)、8K映像、インタラクティブセンサー、裸眼3Dなどの技術を駆使し、北京市中心部の「中軸線」に隣接する地に、芸術・テクノロジー・文化・エンタメ・消費を融合させた新たな空間を創出した。これまでに13万人以上が訪れ、学習プログラムは50回以上開催され、延べ参加者は2500人を超えている。

 常設展示「霊境・未来インスピレーションの世界」では、デジタル陶芸体験や感情分析など十数種類のインタラクティブ体験を通して、時空を超えた旅に出ることができる。期間限定展「敦煌(Dunhuang)メタバース」では、デジタル技術により古代の敦煌石窟芸術がリアルに再現されている。「体験の一体感がすごい」と語る観客の周(Zhou)さんは、「敦煌の実物を見に行ったことがあるけれど、今回ガイドの解説とあわせて、あの感動をもう一度味わえた」と話していた。

 商業空間を単なる買い物の場から、文化・観光を絡めた消費体験の場へと変える動きは、南京市(Nanjing)、上海市、広州市(Guangzhou)などの都市でも進んでいる。

 昨年11月には、世界的に有名なデジタルアーティスト・Beepleによる初の個展「Beeple:人工未来からの物語」が、南京市の「德基芸術博物館(Deji Art Museum)」で開催され、世界中の来場者を惹きつけた。

 同館で話題を呼んでいるのが、「金陵図デジタルアート展」。中国古画『金陵図』を、長さ110メートルの大型スクリーンに百倍に拡大し、来場者はスマートバンドを着用して歩きながら絵の中の人物とインタラクションできる。この「人物と共に絵の中を旅する」ような体験は、まるで宋代の南京を歩くような感覚を与えてくれる。

 このようなユニークな展示体験は、米国・ボストンやフランス・パリでも「中国ブーム」を盛り上げており、、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)フランス支部の責任者ストヤン・バンチェフ(Stoyan Bantchev)氏は「一歩進むごとに新しい発見と驚きがある」と絶賛している。

 德基芸術博物館の館長・艾琳(Ai Lin)氏は、人が多く集まる高級商業施設に誰でも立ち寄れる芸術空間を作ることで、「観客により多様なアート体験を提供し、芸術鑑賞の新しいかたちを提案したかった」と語る。

 彼女によれば、デジタル化が進む今日の世界では、人々の生活とテクノロジーは密接に絡み合っており、芸術と科学は想像力と創造性の交差点として、鑑賞体験とその語り方の革新を促しているという。

 高級商業施設の「南京德基広場(Deji Plaza)」の総経理・呉鉄民(Wu Tiemin)氏は、「消費者ニーズの多様化と個性化が進むなか、ショッピングセンターはすでに『3.0時代』に入っている」と述べる。今やそこは単なる買い物の場ではなく、文化・商業・テクノロジーが融合する総合体験空間となり、内容の魅力や消費体験によって新たなライフスタイルを提案し、未来の消費の在り方を導いている。(c)CNS/JCM/AFPBB News