【三里河中国経済観察】広東省、全方位で人材誘致・就業・起業支援に本腰
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【4月2日 CNS】「東西南北中、発展は広東へ」
全国両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)の期間中に広東省(Guangdong)が大々的に「英雄帖(人材募集の呼びかけ)」を出した後、同省は即座に人材争奪戦をスタートさせ、「百万人の英才、南粤(広東)へ集う」春季大型総合就職フェアが最近開催された。
この「最強の春季就職フェア」は規模・内容ともに極めて充実しており、人力資源・社会保障部、教育部、広東省委員会、省政府が共同で主催していることからもその重視度が分かる。参加企業は1000社以上、提供された職種は5万件を超え、国内外1000以上の大学から約12万人の学生が応募した。
「今までで最大の就職イベントだった。広東省がいかに人材を求め、大切にしているかがよく分かった」と、北京大学(Peking University)の博士課程学生・岳秋宇(Yue Qiuyu)さんは語り、わずか3時間で現地契約に至ったことがメディアで広く報じられた。
「百万人の英才、南粤へ集う」計画によれば、広東省は100万人の大学卒業生を省内に定着・就業・起業させることを目指している。
中国最大の経済規模と人口を誇る広東は、常住人口が1億2700万人、日中のリアルタイム在住人口が約1億5000万人にのぼり、さらに7年連続で出生数全国一を維持している。
人が多い広東が、なぜなおも人材を求めるのか。
その背景には、技術革新と産業変革の交差点に立たされた今、広東はこれまで以上に人材を重視し、渇望し、尊重しているという事実がある。これはチャンスを掴み、課題に対処するために避けて通れない選択だ。
AIやロボットといった新技術・新産業が社会を変えつつある現在、人材の重要性はますます高まっている。イノベーションと開放性で知られる広東は、この発展の好機を見逃すわけにはいかない。
一方で、経済成長の圧力も付きまとっている。世界経済の構造変化、貿易保護主義の台頭、国内構造転換の進行といった要因が、広東経済に不確実性をもたらしている。2024年、広東の経済総量は14兆元(約290兆円)を突破したものの、成長率はわずか3.5パーセントにとどまった。
「『AI三傑』と呼ばれる深度求索(DeepSeek)の創業者・梁文鋒(Ling Wenfeng)氏、大規模AIモデル「Kimi」の創業者・楊植麟(Yang Zhilin)氏、AI分野の著名な科学者・何恺明(He Kaiming)氏は皆広東出身なのに、なぜ広東ではなく他所で活躍しているのか?」という問いは、人材豊富な広東にとっても、切実な危機感を浮き彫りにしている。
広東は、新しい血を継続的に取り入れ、あらゆる人材を結集することで、現代産業体系を支える人材基盤を固め、将来の国際競争で主導権を握ろうとしている。
現在、広東はAIとロボット産業の拠点づくりを加速するとしており、新興産業の人材獲得への意欲はさらに高まっている。
広東省人力資源・社会保障庁の統計によれば、「百万人の英才」計画の第1期では、すでに60万件以上の良質な求人が集まっており、そのうち半導体、AI、低空経済など新興分野の職種が7割以上を占めている。
人材獲得のため、広東は数々の優遇政策を打ち出している。
大学卒業生は「五つの安心」が保障される。すなわち、就職に補助、起業に支援、イノベーションに資金援助、求職中の住居提供、定住に補助がある。また、高度人材には「三つの優遇」がある。博士後期課程修了者への厚遇、緊急・重要人材への優遇、高度人材向けの良質なサービスなどがそれだ。たとえば、緊急人材は広州市(Guangzhou)で2年間最大100万元(約2074万円)の職位支援を受けることができる。
広東のもう一つの強みは、豊かな産業エコシステムだ。伝統製造からハイエンド製造、現代サービスから戦略的新興産業まで、完備された産業チェーンは多様な人材に広大な可能性を提供する。
そしてこの取り組みは、広東からの一方的な「呼びかけ」ではなく、才能ある人びとが新技術や新しい価値観を持ち込むことで、広東の経済社会に新たな活力を注ぎ、イノベーションと総合競争力を高め、世界の産業チェーンにおいてより高い位置へと押し上げる相互の協力関係でもある。
今や重要なのは「人を集める」ことだけではなく、「人を留める」ことだ。今年の政府活動報告では初めて「人への投資」という言葉が登場し、人材争奪の中で広東は遅れを取るわけにはいかないという姿勢を明確にしている。「財を築くために広東へ」から「発展するために広東へ」へ——この一字の違いは、広東に行くことが単なる富の獲得ではなく、自分の価値を発揮し、夢を叶える舞台であることを意味している。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News