■「ハマスの王子」を協力者に

 イツハク氏は1990年代、イツハク・ラビン(Yitzhak Rabin)首相が暗殺された後にシンベトに入庁した。

 シンベト時代は、ハマスの共同創設者シェイク・ハッサン・ユセフ(Sheikh Hassan Yousef)氏の長男、モサブ・ハッサン・ユセフ(Mosab Hassan Yousef)氏の「ハンドラー(指令役)」となった。息子のモサブ氏は、ハマスのシンボルカラーにちなみ、「緑の王子」と呼ばれていた。

 彼の協力を得たイツハク氏は、パレスチナ武装勢力を追跡し、自治政府主流派ファタハ(Fatah)の指導者マルワン・バルグーティ(Marwan Barghouti)受刑者を逮捕するなどして数々の自爆テロを阻止した。

 イツハク氏は、昨年10月7日のハマスによるイスラエルへの奇襲は、ユセフ氏のような二重スパイから計画が報告されていれば防げたとし、イスラエルの安全保障当局のエリート層はハマスを見くびっていたと指摘する。

「何か問題が起きていることを察知するためには、長い時間をかけて仕込んだスパイが必要だ。しかし、わが国にはそれがなかったようだ」

「わが国は、敵は愚かだと考えている。だが、非常に言いにくいことだが、ハマスの方が賢かった」

 イツハク氏は、今こそガザ地区の状況を変え、紛争に終止符を打ち、マハムード・アッバス(Mahmud Abbas)議長率いるパレスチナ自治政府(PA)に国際的な支持を集める時だと強く信じている。