【4月15日 AFP】オーストラリア・北部特別地域(準州)で一時は絶滅寸前となったイリエワニの個体数が、「ワニの楽園」と呼ばれるまでに回復した。

個体数回復に貢献した国際自然保護連合(IUCN)のグレアム・ウェッブ氏は、手っ取り早く死にたいのならば、ダーウィンの川に飛び込めば良いと言った。数分もたたぬうちにワニの口の中だという。

少々荒っぽいたとえだが、オーストラリア北部の水辺に生息するイリエワニの危険性を単刀直入に伝えることは、野放しの狩猟で絶滅しかけたワニの保全に不可欠なのだと語った。

1970年代に政府が保護に動くまで、北部特別地域のイリエワニの個体数は革目的の狩猟と殺処分によって98%減少したとされる。

だが政府のデータによると現在では同地域の海岸、川、湿地に10万頭以上のイリエワニが生息する。イリエワニは大きいものだと体長6メートル、体重1トンを超える。

■ワニ農場

ウェッブ氏は「動物を保全するということは個体数を増やすということだ。これがうまくいくと、捕食動物は人を食い殺し始める。すると皆が駆除しろと言い始める」と指摘する。

北部特別地域では市民に向けた危険啓発キャンペーンや、人口密集地からのワニの移動を定期的に行うことで、ワニと人間の共存関係を比較的良好に保ってきた。

またワニの卵の採集を、皮革産業と地元住民の生計に直結させるプログラムを運用している。このプログラムでは、土地の所有者は自分の土地で採集した野生の卵をワニ農場に提供し、収入を得ることができる。土地所有者の多くは先住民だ。

ワニ革の取引は捕獲される野生のワニだけでなく、そうして採集された卵から育てるワニ農場に依存している。北部特別地域では毎年、卵の採集は7万個、ワニの捕獲は1400頭まで認められている。

ウェッブ氏によると、観光業やワニ農場など「ワニ関連の仕事に就いている人はかなり多い」。

北部特別地域のワニ革製品の製造量は同国1位で、ワニ養殖産業の規模は年間1億豪ドル(約90億円)超とされる。ここで生産されるワニ革はエルメスやルイ・ヴィトンどの高級ブランドで使われている。

ウェッブ氏の同僚で、IUCNのワニ専門家チャーリー・マノリス氏は、ワニを野生環境に置かずに利用することを批判する人もいるが、皮革産業と結びつけることで大量殺処分を行わずに済んでいると説明した。「養殖自体が目的ではない。養殖することで、野生の群れの保全につながる」