【1月24日 東方新報】中国でもテレビ離れは進んでいる。視聴者が見ているのは、アプリ上で再生されるショートドラマだ。1話数分から十数分という短い映像劇で、恋愛やホラー、アクションなど人気ジャンルのヤマ場だけを切り取ったような手軽さがウケている。

 中国メディアによると、2023年の中国のショートドラマ市場の規模は前年比267.7パーセント増の373億9000万元(約7694億円)と大幅に伸びた。「中国のハリウッド」と呼ばれる映画産業の拠点「横店影視城」では、毎日100本近くのショートドラマが撮影されているといわれる。撮影時間や予算規模が異なる映画やテレビドラマとは単純比較できないが、本数で数えればほぼ同じか、それ以上になっているとの推測もある。

 横店影視城とは、1990年代半ばに中国の投資会社によって浙江省(Zhejiang)の山間部に開設され、現在では中国国内で制作される映画、ドラマの7割以上がここで撮影されている。広大な敷地内部には原寸大の故宮や広州街、香港街、秦王宮など大がかりなオープンセットが設置されている。周辺にも大道具、小道具の製作工房に、撮影クルーや観光客が滞在する宿泊施設やレストランなど、映画産業チェーンができあがっている。

 なかでも圧巻なのが映画の通行人役などのエキストラだ。常時50前後の撮影チームが稼働している横店では、映画やドラマに出演するエキストラを大量に必要としている。オープン当初は近くの村人を雇っていたが、とても足りず、アルバイトを雇うようになった。そこに中国全土から俳優を夢見る若者たちが集まってきたのだ。

 横店には、エキストラ登録をしている俳優のタマゴが約6000人もいるという。しかし、命じられるままに動くだけのエキストラの待遇は最底辺である。日給は100~200元(約2057円〜約4115円)。時代劇で、清朝の弁髪スタイルに髪をそり上げても上乗せは40元(約823円)前後だという。

 そんな横店のエキストラたちを主人公にした2015年公開の映画が『我是路人甲(英題:I AM Somebody)』だ。主人公の万国鵬(Wan Guopeng)は、雪深い中国東北部の田舎から俳優を夢見て横店にやって来たが、現実は思った以上に厳しい。だまされたり、落ち込んだり、ようやく獲得した仕事も泥だらけになって砲弾の下をかいくぐったりする役ばかり。だが、通行人役だった女性と知り合って心を寄せ合うようなると、友人が大きな役を射止めるところからストーリーが急展開していく。

 現実には、巨額の制作費用をかけた映画やドラマ制作で、エキストラが大役を射止めることはまずない。だが、ショートドラマの爆発的な人気でそんな常識も変わってきているというのだ。

「脚本を書くのに7日間」「100話を撮影するのに1週間」と、ショートドラマの荒っぽい制作手法はよくやり玉に挙げられるが、これまでチャンスに恵まれなかったエキストラたちにとってはむしろ好都合だ。1話あたりの制作費も数百元(数千円)からと安い。制作実績がないほぼ素人でも、映画賞の受賞歴がなくても、やる気とアイデアさえあれば、権限を持つ制作側に回ることができるようになったのだ。

 俳優とカメラマン、映像スタッフを2~3人で兼任して制作したショードドラマが再生数1億回超えのヒットシリーズとなり、一夜にしてスタッフ全員が大金持ちになるという冗談のようなサクセスストーリーが現実に生まれている。

「ヨコの画角で撮影される既存の映画やテレビドラマでは主人公になれなくても、タテの画角で流れるショートドラマなら私たちにもチャンスがある」。スターダムを夢見る横店のエキストラの言葉だという。名もないエキストラだった彼女たちがつくる新しいドラマに期待したい。(c)東方新報/AFPBB News