【1月7日 東方新報】上海から南西へ約300キロ、中国・浙江省(Zhejiang)東陽市(Dongyang)横店鎮(Hengdianzhen)にある世界最大の屋外映画スタジオ「横店影視城」は「中国のハリウッド」といわれる。人口1000人程度の寒村は30年足らずで一大映画都市に変貌し、年間2000万人の観光客が訪れている。

 横店影視城では1996年に最初の映画『アヘン戦争』の撮影が行われ、年々規模が拡大。巨大な城門、豪壮な王宮などを舞台に、今では毎日100本近い映画やドラマの撮影が行われている。総面積は30平方キロ以上。東京23区の平均面積(27.3平方キロ)を上回る広さだ。中国映画の4分の1、時代劇の3分の2がこの地で撮影されている。ディズニー(Disney)映画『ムーラン(Mulan)』や日本の映画『キングダム(Kingdom)』など、中国を舞台にした海外作品の撮影も行われている。

 巨匠・張芸謀(Zhang Yimou、チャン・イーモウ)監督の『英雄(英題:HERO)』の撮影に使われた秦王宮、宋代の街並みを忠実に再現した清明上河図、ありし日の広州(Guangzhou)や香港を復元した広州街・香港街など十数エリアに分かれ、1日で2~3エリアを見るのがやっとだ。遠方からでも見えるカメラを載せた大型クレーンを目指せば、たいてい撮影風景を見ることができる。撮影に使われる刀剣や巨大攻城兵器、華麗な衣装をあちこちで見学でき、ワイヤアクションショーや雑伎ショーなどさまざまなアトラクションも楽しめる。

 中国で時代劇の撮影基地は各地にある中、横店影視城の強みは「産業チェーンの確立」といえる。衣装・小道具制作会社や機材レンタル会社などが現地に多数あり、撮影に必要なアイテムがすぐ手に入る。エキストラの仕事を求める「大衆役者」が約8000人常駐し、制作側が「微信(ウィーチャット、WeChat)」で「群衆役○人を募集。あす午前10時面接」と一斉送信すれば、すぐに人材が集まる。一流スター向けの高級ホテル・レストランから安宿・大衆食堂までクラスに応じた施設も充実。制作会社のスタッフも常駐し、「迫力のクライマックスシーンの撮影終了!」とリアルタイムにPR情報を発信している。

「大横国」と呼ばれるようになった横店影視城も、近年は逆風にさらされてきた。政府のマスメディア統括部門である国家新聞出版広電総局は2019年、動画配信会社に対し、時代劇の作品を一定割合以内にするよう指示。一般に「限古令(時代劇制限令)」と呼ばれ、現実離れした伝奇ファンタジーや過激な武侠アクション、宮廷の権力闘争、封建社会の美化につながるような作品が放映されなくなった。2020年にはコロナ禍が始まり、横店影視城のロケも減少した。それでも新しい時代劇の制作や撤退したコロナ対策により、2021年には現地に拠点を置く映像関連会社は約1500社に上り、2021年上半期の売上高は前年同期比30%増の103億元(約1877億円)となった。

 横店影視城を運営する横店集団の徐天福(Xu Tianfu)副総裁は中国メディアの取材に「制作に必要なのは、設備以上に何よりも人材の育成だ。横店鎮を若い人材が成長するシリコンバレーにしたい」と語る。現在、横店芸術大学の設立を進めており、さらに若者が映像ビジネスを起業するのを支援するインキュベーション基地を構築している。

 また、横店影視城にヨーロッパの観光地を模した撮影基地を新たに建設しており、2022年末にはドイツエリアが完成する。徐氏は「中国と海外の映像製作者が集まる拠点として、横店影視城をさらに発展させていきたい」と意気込んでいる。(c)東方新報/AFPBB News