【12月12日 東方新報】中国の「高齢ネット民」人口は、すでに1億5000万人を超えているという。

 北京市に住む女性の魏(Wei)さんは「ネット依存症の父親」についてため息をつく。今年初め、退職した父親のために、スイミングクラブの高額な年会費を払い、さらには老け込み防止のため「父親のやることリスト」を幾つも作ってあげた。しかし、思いやりもむなしく、父親のスイミングカードは使われずに放置され、「やることリスト」はやらないままで、魏さんの父親はほとんど「スマホの中の生活」に埋没している。

 魏さんが最も不満なのは、滅多にない家族3人で集まる夕食の時間、父親はいつも慌ただしく二口ほど食べてから、直ぐに席を立って自室に戻り、ベッドに寄りかかってスマホを手に親指を上下させ始めることだ。

「ライブ販売の騒々しい音、ショート動画の魔法じみた背景音楽、そして父親のくすくすと含み笑いをする声、これを聞くと腹も立つし、無力感も感じます」、彼女は少し悲しそうにこのように話す。

 スマホにハマっている親は少なくない。ソーシャルネットワーク(SNS)上では、多くのユーザーが「自分の家にもネット中毒の親がいる」と率直に話し合う姿が見られる。

 ひっきりなしに買い物やSNS、ゲームを楽しんでいる高齢者がおり、中には罠に陥って金銭を騙し取られた親もいる。老齢の親たちは子どもたちの忠告も聞かないという。

「中国インターネット情報センター(CNNIC)」の統計によると、2022年12月時点で中国の60歳以上のネット民の規模は、すでに1億5000万人を超えている。

 高齢者にとってインターネットは「新鮮なもの」だが、いったん使い始めると深入りするのを止めるのは困難なようだ。

「中国人民大学(Renmin University of China)・人口と発展研究センター」の翟振武(Zhai Zhenwu)教授は、老人のスマホ依存症を「使用時間が過度に長い」「使いたい欲求を抑えられない」「身体と心への負担や人付き合いの悪影響」の三つで判断している。

「上海社会科学院・新聞研究所インターネットガバナンスセンター」の方師師(Fang Shishi)主任は「高齢者のスマホ依存症の判断は、使用時間よりも、スマホで何をしているのかに注目すべきだ」と指摘する。高齢者のスマホ依存症判定の第一の要素は、長時間かつ大量にネットショッピングやネットエンターテインメント機能を使用していること、そして使用を止めると禁断症状が出ること、心や身体の健康に悪影響が現れていることだとしている。

■老人はなぜスマホ中毒になるのか?

 深セン市(Shenzhen)で仕事と子育ての両立に忙しい二児の母、萍(Ping)さんは、5年前から山西省(Shanxi)の実家の母親に来てもらい、子どもの世話を頼んでいた。ところが半年前、その母親が「神経根型頸椎症」という首の病を発症してしまった。「思い返せば、仕事から帰って休む暇なく家事や子供の相手をする毎日で、私は母親とのコミュニケーションを疎かにしていました」、萍さんはこう反省する。母親は深センに友達もおらずの「老漂族(孫の世話のため故郷を離れ、不慣れな大都会で孤独な生活を送る老人)」の境遇で、寂しさを慰めるためスマホ中毒になり首が持たなくなったのではないかと、彼女は推測する。

 方主任は「退職、一人暮らし、子守りなど高齢者の生活の変化は、社会的な役割の変化を意味する。彼らは家庭や社会の中で次第に疎外され、心理的な落差が生じ、帰属感、価値観、存在感を取り戻すという気持ちが生じる。ところが現実の生活の中ではそれが得られないので、虚構の世界に入り込むのだ」と分析する。

 高齢者が楽しみを得る場所はスマホの中だけではないはずだが、現実的には健康施設も「老年大学」も数が限られる。もし故郷にいれば、おしゃべりや日光浴など日常的な癒しがあったのだが。

 方主任は「老人のスマホ中毒や詐欺事件が報道される時、老人の自己コントロール能力、意志の弱さ、文化レベルの低さを指摘する人がいるが、老人にそう言って責めたりすべきではない。むしろ外部環境や客観的な条件を問題にすべきだ」と強調する。

 方氏は「スマホのアプリの中の世界は、老人が感情や時間やお金をつぎ込むのに十分な満足感、輝き、高い刺激性があり、画面に登場する人物との距離は近い。感情も時間もお金もつぎ込みたくなる『完全な体験』が容易に得られ、中毒になりやすい」と分析する。

 また一部のネット運営者は老人のスマホ操作行動を追跡し、アルゴリズムモデルを使って老人向けにピッタリの情報を送信して老人による「流量」を「収穫」しているとも指摘する。

■高齢者を包み込めるデジタル社会の構築

 数か月前、「中高年の星」と称するショート動画の人気インフルエンサーのアカウントが封鎖され、世間の注目を浴びた。報道によると、フォロワーは1千万人、そのうち50歳以上の中高年の女性が9割を占めていたという。

「若者と高齢者は同じインターネットにアクセスしているが、多くの場合は、互いに隔絶されている。人びとは『情報の繭(まゆ)房』(自分の興味、価値観に合った情報だけに触れ、異なる情報や相反する情報を無視し排除すること)に閉じ込められている。若者は高齢者が何を見ているか知らないし、高齢者も自分からは言わないので、自分が質の悪いコンテンツのネットワークの中にいることに気づいていない。虚偽情報や合成した跡が分かる画像を、若者は鼻で笑うが、高齢者は信じ切っている」、方氏はこのように指摘する。

 人口構成はますます「高齢化」し、デジタル技術はますます「進化」している。高齢化とデジタル化はどちらも止められない潮流だ。この潮流の中、膨大な高齢者層をデジタル化の波の外に置いてはならないという社会の共通認識は、確かに存在する。

 ではどうすれば良いのか?

「未成年者向けの中毒システムを参考にして『高齢者版システム』を開発すべきだ」と提唱する人がいる。一方「それはあまり得策ではない。未成年者と違い、高齢者は自分で思考し行動する能力と意思がある。単純な未成年者用のシステムの適用では無駄になる部分が多い」と主張する研究者もいる。この研究者は「やはり様々な手段を使って高齢者のデジタル技能や素養およびインターネットを合理的に適度に積極的に利用する力を養成することが重要だ」と強調する。

「ウェブサイト、デバイス、ソフトウェアに高齢者に適した改造を施し、5G技術や人工知能(AI)を活用した高齢者向けのアプリケーション研究に力を入れる。その一方で、高齢者の自己表現や社会参加に役立つネットワークプラットフォームの構築を進め、軽薄な娯楽的コンテンツへの管理を強化する。そして高齢者が適切なネットワークツールを活用し、『仮想社会』にも合理的に適切に溶け込めるように導く」、広東省(Guangdong)社会科学界連合会の王冰(Wang Bing)副研究員はこのように提案する。(c)東方新報/AFPBB News