【11月17日 東方新報】老人食堂、老年大学、シニア団体ツアーなど、若者が老人向けのサービスの場に加わる光景が最近の中国で頻繁に見られ、話題を集めている。

 専門家はこの「老人向け消費サービスに擦り寄る形の消費動向」を、若者の消費に対する考え方の変化、また世代間の消費の差異の縮小と見ており、サービス提供側は今後さらに多くの選択肢を提供して、多元的な消費ニーズを満足させる必要があると指摘する。

「元々コミュニティー食堂は老人専用のものと思っていましたが、一度食べてみたら、その認識はひっくり返りました」、上海市で働く王(Wang)さんはこう話す。近ごろ王さん夫妻が昼の時間に徐匯区(Xuhui)のコミュニティー食堂に偶然足を踏み入れて、肉と野菜2品ずつと主食を頼んで33元(約687円)を支払った。その中身が非常に満足できるもので、彼のような出勤族にとって大変魅力的だったという。

 最近は王さんのように老人消費の場に入り込む若い消費者が少なくない。シニア団体ツアーに参加して老人に交じって遠出をする、ケータリングに頼るよりもコミュニティー食堂で食事をする、興味のあることを学ぶために老年大学に通うなど、インターネットでも老人向け消費の場での体験を共有する若い消費者がますます増え、ホットな会話が交わされている。

 何が若者を老人消費の場に惹きつけるのだろうか?

■「老人向け消費」のコストパフォーマンスは優秀

「老人食堂は内装もモダンで、料理を注文する配膳台の仕切り板は清潔で透明で、注文の流れも合理的な感じです」、自身の体験を語る王さんは率直に驚きを隠さない。「メニューが豊富で、私たちが注文した9元(約187円)の『糖醋里脊(甘酢揚げ豚ヒレ肉)』、8元(約166円)の『莴笋肉片(茎レタス豚肉炒め)』、5元(約104円)の『蜜汁南瓜(蜜汁かぼちゃ)』とか、味は予想以上で価格はとても割安です」、王さんは老人向けコミュニティー食堂の「ソフトパワー」を実感している。

 今、たくさんの老人層向け食事提供サービス施設に、さまざまな年齢、さまざまな職業の消費者が訪れるようになっている。「分量も味も最高で、品揃えも合理的、油と塩分も控えめで、テイクアウト料理よりも自分の口に合っている。電子決済も食券も使えてとても便利」、多くのネットユーザーたちがこのような感想をネットにアップしている。

 多くの若い消費者が、飲食分野だけでなく、もっと多くの老人向け消費シーンを発掘し始めている。シニアツアーや老年大学は若者の消費の視野の中に入りつつある。

 多くの若者が「偶然の体験や老人のお伴で体験したことが、老人向け消費シーンと自分の生活とを結びつける接点になった」と述べている。

■世代間の消費格差が縮小

 中国社会科学院社会学研究所青少年と教育社会学研究室の李闖(Li Chuang)助理の分析では、「老人向け消費サービスに擦り寄る形の消費動向」の出現は、若者の消費観念の変化が表れたもので、若者の教育レベルの向上に伴い、情報の範囲も広がり、消費の選択においても理性的な方向に向かっているという。また李氏は、世代間の消費の差異が縮小しているとも見ている。

 李氏は「社会の発展進歩と人々の生活水準の向上に伴って、今の老人は昔に比べ、より積極的な意識を持ち、しっかりとした目で消費市場を見て、新しい製品やサービスを試すのにも前向きだ」と言う。

「老人層の消費に対する観念は皆が思うほど年寄り臭くないし保守的でもない。いくつかの分野では、老人の興味は若者と共通点がある。例えば、老年大学のフラワーアレンジメント教室は老人から人気があるが、同時に若者にも人気が高い」、李氏はこう説明する。

 老人と若者の興味の共通性以外に、若者を老人向け消費の場に引き寄せる要因には、若者の差別化消費の体験がある。

 北京の某旅行社が取材に応え、「老人向けツアーは一般的に観光スポットが全部網羅され時間が長い。生活リズムが早い若者にはあまり向いていないかも知れない」と話していた。しかし一部の若者はテンポの速い旅行に飽きて、老人ツアーに参加し始めた。SNSプラットフォームには、若者の老人ツアー体験をもとに作成したブログ(動画)の投稿が見られるようになった。そして「人付き合いのプレッシャーも無いし、手配の心配も無く、取り残される心配も無い、老人ツアーは素晴らしい!」というコメントも見られた。

■提供側のサービスの最適化で、多様化ニーズをさらに満足させる

 近ごろ、多くの事業者が若者の消費ニーズを探究し、若者が好む消費モデルと消費シーンを創り出すことに力を入れている。飲食の分野では、「デリバリーセット」「1人セット」「2人セット」など若者の多様なニーズに応えるプランが登場している。また一部の商業エリアでは、若者の社交的な消費の場を用意して、若者がまとめてそこでショッピングを楽しめるように工夫をしているところもある。

 しかし、この「老人向け消費サービスに擦り寄る形の消費動向」の出現は、若者向けの消費需要がいわゆる「若者向け」というラベルを貼って一くくりにできるものではないことを表している。

 現在、老人向けの製品、サービス内容、施設がますます良くなっている。実は若者も、良質でリーズナブルな製品やサービス、またより良い消費体験を望んでいる。流行やただ面白がっているだけで老人向け消費に擦り寄っているわけではない。若者もより多くの選択肢を求めているのだ。

 専門家は「若者層と老人層の消費領域での『交叉』は、思いもよらない『化学反応』を生み出している」と言っている。中国社会科学院社会学研究所消費と文化社会学研究室の朱迪(Zhu Di)副主任は「本来、若者と老人との間には非常に強い相互補完性がある。娯楽や旅行を通して、双方の理解を深めさせ、消費資源をさらに最適化することができる」と見ている。(c)東方新報/AFPBB News