【12月31日 AFP】ミャンマー最大の観光地として知られたインレー湖(Inle Lake)では今、浮き畑農業が盛んだ。

 シャン高原(Shan Hills)に位置するインレー湖は、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)に指定されている。近年増えている浮き畑農園は、高床式住居や足でオールを操作して船をこぐ漁師たちと同じくらいこの湖の名物となった。

 ニュンウィンさんは、小舟で湖面を進みながらトマトの世話をしていた。元々は湖畔で農業を営んでいたが、数年前に浮き畑農園の株を購入。今ではトマト1箱あたり3万チャット(約2000円)の収入を得ている。「決して豊かではないが、これでやっていけている」と話す。

 ところがこの浮き畑が、湖を徐々に窒息させつつあると懸念する声が上がっている。肥料や農薬、排水などに含まれる化学物質や腐った浮草なども問題となっている。

 浮き畑で栽培する作物には、根覆いが必要だ。しかし、そのために使われている水草のホテイアオイが過剰繁茂し、他の植物の光合成を遮って、湖の酸素濃度を低下させてしまう。

 ミャンマー政府の報告書によると、1992年~2009年にインレー湖の浮き畑面積は6倍に増えた。今も栽培面積は拡大する一方だ。

■窒息する湖岸

 浮き畑の土台が腐り始めると、農民たちはその部分を切り離し、新しい浮き畑を作る。腐った土台は湖の岸に積みあがったまま放置されている。
 農業・畜産・かんがい省の職員はAFPに対し、浮き畑農園がインレー湖を「破壊している」と語った。地元当局は漂流ごみを指定された場所に集めようとしているが、管理する資源がないという。「湖が狭くなっているのはそのためだ」

 ニュンウィンさんら浮き畑を営む農民の側は、湖畔で何十年にもわたって焼き畑農業を続けた結果、土砂が流れ込んだのが原因だと反論する。「若い頃は3メートル以上ある竹ざおのてっぺんまで水があった」が、今では夏になると小舟の上から「土をつかめる」という。

 2017年の国連(UN)報告書では、浮き畑農園によって「化学肥料と農薬がかなり過剰に使用」され、湖の汚染、周囲の生態系の破壊につながっていることが明らかになった。

 住民のネーさん(24)は「小さい頃はこれほど水質は悪くなかった」と嘆く。食用に適した魚の多くがもはや見つけることはできないという。

 湖畔で土産物の宝飾店を営むチョーチョーさん(38)も「浮き畑が増えすぎて、飲み水や洗濯に使う水がきれいではなくなった」と悲しむ。

 新型コロナウイルスの流行で旅行者が激減するまでは、毎年国内旅行者100万人と外国人観光客約20万人がインレー湖を訪れていた。しかし2021年の軍事クーデターと各地での戦闘拡大もあり、観光客は戻ってきていない。

 ある住民はそれでも湖から離れたくないと言った。「インレーに住んでいるだけで幸せだけど、湖がなくなってしまうことが心配だ」 (c)AFP