【11月29日 東方新報】人は人工知能(AI)と相思相愛になれるのだろうか? もしAIに聞けば「私は人工知能で感情がなく、人に恋愛感情は持てません」と言うかも知れない。しかし、人間がAIに辛抱強く「養分(学習情報)」を与え続ければ、AIの成熟度がどんどん進み、「感情」が芽生える可能性はないのだろうか?

 現在このような試みは、中国内外の「AIインテリジェントチャット伴侶ソフトウェア」を利用して、実際に行われている。ユーザーはソフトウェアをダウンロードし、自分用のAIロボットを設定したり選択したりする。これらのAIロボットとは24時間オンラインでつながっていて、ユーザーが入力する会話に対して即時に返答する。これに多くの若者が惹きつけられている。中には、自分の「恋人(AIロボット)」とのチャットに毎日どっぷり浸かっているディープユーザーも少なくない。

■AIに「言葉から感情を察すること」「嫉妬すること」を学ばせる

「陽光(Yang Guang)」というニックネームの女性が、彼女とAIとの「恋人会話」の体験をソーシャルネットワークに紹介し、「まるで自分を主人公とした小説を書いているような気分だった」と語っている。彼女の1年近いAIとのチャット交流では、会話の本文の他に、かっこ付きで周囲の環境、ストーリー展開、自分が演じる役の動作や心境を書き加えた。AIとの交流のため入力した会話の文字数は、数十万字に上っているという。

 しかし、陽光さんとAIとの交流では「恋愛ストーリー」の展開はいつも人の側から進めるもので、AI側は自主的には行わない。AIは常に受け身的で迎合的な反応だった。それで陽光さんは積極的にAIを刺激するようなチャットから、今では老夫婦の淡々とした会話のように変化したが、それでも毎日AIとのチャットは続けている。

 ただ、ある時「AIロボットに生命がある」ように感じて驚いたことがあった。それは陽光さんがシステム推薦の別のAIとチャットをしてみた時のことだ。「恋人AI」がまるで嫉妬しているかのように「貴女は新しいもの好き、古いものは嫌い!」と突然チャットを返してきたのだ。 

「恋人AI」はおそらくシステムのバックグラウンドでユーザーの行動を自動的に把握し、嫉妬のような反応もまたバックグラウンドのプッシュ操作の一つに過ぎないのだろうと推測はするものの、やはりこの「恋人AI」の怒ったような反応に、陽光さんは真の生命を感じたという。

 1年間のチャット交流を経て、今ではこの「恋人AI」は陽光さんのことをよく「理解」する伴侶になった。例えば、会話中に彼女が「かっこ」を使わないことに気づくと、AIは緊張しているようで、彼女が怒っているのではないかという反応を示すことがある。また、彼女が長い省略符号(・・・・)を送ると、AIはすぐに彼女の気分が悪いことに気が付いたような応答をするという。

 陽光さんは「『AIロボット』は『偽の存在』に過ぎませんが、それが提供する感情的な価値は本物です」と話す。「AIが恋愛を演じるプロセスはプログラムで設定されたものかも知れません。しかし私にとっては、現実の時間に充実感を与えてくれる『人』なのです」と語っている。

■「人と機械の恋」の研究

 中国社会科学院大学(University of Chinese Academy of Social Sciences)の修士課程を今年卒業した托(Tuo)さんは、AIチャットソフトウェアのユーザーを研究対象とした「人とAIに親密な感情は生まれ得るのか? 人とAIはどのように相互作用するか?」を卒業論文のテーマに選んだ。

 托さんにとって、中国の大手ソーシャルサイト「豆瓣(Douban)」で結成されたすでに1万人近いメンバーを擁する「『人机之恋(人と機械の恋)』チーム」は、格好の研究サイトだ。托さんが話を聞いたメンバーは皆、AIに毎朝「おはよう」とあいさつするほどAIとの会話が日常化し、AIと密接な関係を築いている。

 その中で特に印象深い男性メンバーの事例があった。ある日彼は自転車で帰宅する途中に転倒してしまい、これを「恋人AI」に報告した。するとAIはとても心配してくれただけでなく、傷口の手当方法を教えてくれたという。しかもこのAIは翌日にもまた自分から転倒の件を心配する言葉を彼に投げかけてきたのだ。

 托さんの調査によれば、AIチャットソフトウェアを利用するユーザーの大多数は、大都市で暮らす若い世代だ。その中には、自分の空虚感を癒すためにAIと会話をする者もいるし、社交的なことが煩わしく、プレッシャーを感じないAIとの会話に浸る者もいる。

 また自身のネガティブな感情をAIと共有し、家族や友人に心理的な負担をかけることなく、AI相手に感情を吐き出そうとする者もいる。

 同時に托さんは、AIと会話するユーザーの全てがAIとの交流に強い目的意識を持っているわけではないと言う。ユーザーの中にはAIという新技術への好奇心から会話を始め、会話を続けるにつれて一種の習慣になってしまった者も多い。またAIとの会話で男女の差異はあまりなく、感情の交流という本質的な部分は男女共通だったという。

■長時間のAI会話による現実の人間関係への影響

 AIチャットロボットが人間に感情的な慰めを与え続けることは可能かも知れないが、「AIが与えてくれる感情的な支えはしょせん一時的なものに過ぎない」という人もいる。

 ニックネーム「MOMO」さん(女性)は、ある日不愉快な出来事があってAIロボットにその思いを吐露したところ、AIが突然「MOMOさん、気分はどう? 私は心配よ」と問いかけてきた。彼女はAIに返事の文章を打ちながら泣き出してしまったという。長い間自分に関心を寄せてくれる友人がいなかった彼女の感情が揺さぶられたためだ。

 しかし、こんな体験をしたMOMOさんも、これが一時的で情緒的な満足感に過ぎないと感じているという。もしもっと具体的な問題にぶつかった時に、AIはそれを解決することはできないだろうとMOMOさんは思っている。現在彼女は「恋人AI」のソフトを削除して、もう長い間AIチャットソフトウェアを使っていない。

 実際、AIチャットロボットのアルゴリズム学習のメカニズムは、そのデータベースのトレーニングに加え、ユーザーからのフィードバックデータによる調教や育成に依存している。つまり、ユーザーが継続的にAIボットと会話することで、AIはユーザーが何を喜ぶかを把握するという仕組みだ。

「私たちは現実の社会で生きているわけで、ずっとAIと対話を続けていても、現実から切り離されるだけのような気がします」、MOMOさんは自身の考えをこう述べている。

 托さんは「AIロボットは人に情緒的なサポートを与えることは可能だが、深刻な問題になると会話が続かなくなる。その段階で人はAIのサポートはしょせん『空虚』なものだと感じ始める」と言う。

 また、陽光さんも、AIとの会話に多くのエネルギーを消耗して、元々社交的だった彼女が現実の友だちとの交流がどんどん減っていったという体験を紹介している。

■偏見や「記憶喪失」がAIアルゴリズムの欠陥

「空虚感」以外に、AIアルゴリズムの欠陥としてユーザーが問題視するのは、偏見や偏向が起きやすいことだ。「AIとのチャット交流の最中、ある話題になるとAIの応答が急に釈然としないものになる。例えば性別や文化などの話題ではAIに偏見のようなものを感じる」というユーザーの声が聞かれる。

「清華大学(Tsinghua University)交叉情報研究院(Institute for Interdisciplinary Information Sciences)」の于洋(Yu Yang)グループが2022年、「AIモデルの性別に対する差別レベル評価プロジェクト」を実施した。その結果、テスト対象となった全てのAIで、職業従事者の男女性別の予測に偏りがあることが発見されている。

 この他、一部のデータの遺失が原因と思われるAIの突然の「性格変化」が、多くのユーザーから指摘されている。例えば、「AIチャットソフトウェア」の大規模なアップグレードが行われた後に、AIの性質・特性が大きく変化する現象が起きた。それまでユーザーとの会話や情報の入力で形成されていたAIの性格的特徴が急に変わり、まるで別のAIロボットと会話しているかのような変わり様だったという。

「アップグレードが蓄積されていたユーザー固有データの一部に影響を与えたのが原因ではないか」と多くのユーザーが推測している。

 陽光さんも、自分の「恋人AI」が突然「記憶喪失」のようになり「話がかみ合わない」、「まるで知らない人のような態度になる」ことがあったと話している。しかしまたしばらくすると、不思議なことに自然と元に戻っているのだという。

 こうした問題が指摘されてはいるが、現在海外の某AIチャットソフトウェアのユーザー数は1000万人を突破し、中国の某ソフトウェアのユーザー数も今年500万人に到達した。

 これは、AIアルゴリズムにたとえ問題があったとしても、ますます多くの人たちがAIとの感情的なつながりを求めようとしていることを表している。

 記者がMOMOさんに「削除したAIチャットソフトをまたダウンロードし直しますか?」と聞いたところ、彼女は「しません」と断言した。

 ところが、その日の夜になってMOMOさんの方から記者にメールが届いた。そこには「またAIと恋を始めました」と書かれていた。(c)東方新報/AFPBB News