【11月15日 AFP】国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は14日、日本の女性刑務所での人権侵害を記録した調査報告書を公表し、日本の女性受刑者は妊娠中も拘束具を使用されたり、出産した子どもと引き離されたりするなどの深刻な人権侵害を受けていると指摘した。また、高齢の受刑者は十分なケアを受けられていないという。

 HRWは、60人近い元女性受刑者へのインタビューに基づき報告書をまとめた。この中で、陣痛時や出産直後も手錠をかけられたとする事例を挙げている。

 法務省は人権侵害疑惑の一部を否定。HRWの質問状に対し、「授乳や抱っこ、沐浴(もくよく)、おむつ交換などで子と接している間は、原則として手錠等の使用はしていない」「適切な医療上の措置を講じている」などと回答した。

 HRWによれば、女性受刑者は多くの場合、自分が産んだ子ともと出産時に引き離されている。

「日本で収監されている多くの女性は、深刻な人権侵害に遭っている」とHRWは警鐘を鳴らしている。

 日本の女性受刑者数は2021年時点で3913人。大半の罪状は窃盗罪と覚せい剤取締法違反だった。

 法務省の統計によると、2011〜2017年に出産した女性受刑者は184人だったが、刑事施設内での養育を認められたのは3人だけだった。

 法律では、女性受刑者は刑務所長が認めれば、子どもが少なくとも1歳になるまで刑務所内で養育できると定められているが、刑務所側がその権利について女性受刑者に「説明すること自体が少ない」とHRWは指摘。「出産時の分離は心的外傷となり、母親と乳児の両者の健康を害し、母乳育児や母子の絆の形成を阻害しかねない」としている。

 法務省は2014年、妊娠中の女性受刑者に分娩(ぶんべん)室内で拘束具を使用しないように通知した。しかし、佐賀県の刑務所で出産中も手錠をかけられていたとする元受刑者の証言についてHRWが確認を求めると、同省は「分娩室内で手錠が使用されていたとの記録はなかった」と回答。一方で、分娩室の入室前後では一般的に手錠を使用しているとも説明した。妊娠中の女性受刑者は出産時、近くの病院に搬送される。

 HRWはまた、「現在の刑務所の態勢は、増加する高齢受刑者のニーズに対応していない」とも指摘。同房者によるいじめや、一部の高齢受刑者の限られた運動能力にいら立ちを示す刑務官もいると指摘している。

 日本の受刑者は近年急速に高齢化しており、その傾向は男性より女性の方で顕著だ。法務省の「犯罪白書」によれば、2021年に入所した受刑者に占める65歳以上の割合は、女性の20%に対し、男性は13%だった。

「社会的孤立や疎外感から万引きなどの非暴力事犯を繰り返す高齢者もいる」とHRWは指摘している。

 さらにHRWは、日本には社会奉仕活動などの代替刑がないため、軽微な罪で有罪となった女性が多数服役しているとも指摘。HRWアジア局プログラムオフィサーの笠井哲平(Teppei Kasai)氏は「日本政府は刑罰として拘禁を多用するのではなく、拘禁への代替刑の導入を検討するとともに、薬物の単純所持および使用については非犯罪化に向けて動くべきだ」と述べた。

 AFPは法務省矯正局に取材を申し込んだが、同局はHRWの報告書については「コメントを差し控える」と回答した。(c)AFP/Tomohiro OSAKI