【10月18日 AFP】パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)を実効支配するイスラム組織ハマス(Hamas)によるイスラエルへの攻撃によって引き起こされた中東における血みどろの紛争を受け、米国の名門大学でも激論が交わされている。こうした大学は将来指導的な立場に立つ人材を育成する場である一方で、学生活動の場ともなっている。

 ハーバード大学(Harvard University)やスタンフォード大学(Stanford University)、ニューヨーク大学(New York University)では、学生、教授、大学当局を巻き込んだSNS上での激論が公けになっており、政界やメディアにも影響を与えている。

 少なくとも幾つかのケースでは、紛争をめぐり立場を表明した結果、就職の内定取り消しにつながったり、暴力をほのめかす脅迫を受けたりする事態に発展している。

 ハーバード大では、一部の学生グループが署名した声明に対し、猛反発が起きた。

 声明は、「現在進行中の全ての暴力についてはイスラエルの政権に全面的な責任がある」とした上で、現在の事象は「何もない状態で突如起きたわけではない」と指摘。「イスラエルによる暴力は75年間にわたり、パレスチナ人の存在に関わる全ての側面において構造化されてきた」と主張した。

■「臆病」と批判

 これに対し、元財務長官で、ハーバード大の学長を務めたこともあるローレンス・サマーズ(Lawrence Summers)は、辛辣(しんらつ)な反応を示した。

 サマーズはX(旧ツイッター)に、学生の声明だけでなく、「ハーバード大学指導部の沈黙」についても「吐き気がする」と投稿した。

 サマーズは、ハーバード大はその結果、「よく見たとしても、イスラエルへのテロ行為に対して中立的」な姿勢を維持しているように映ると指摘した。

 マサチューセッツ州選出の民主党議員、ジェイク・オーキンクロス(Jake Auchincloss)は、母校での出来事を「恥ずかしく思う」とSNSに投稿。学生の声明を「道徳的な堕落」とするとともに、大学指導部については「非難を気にして臆病になっている」と批判した。

 2024年大統領選の共和党候補指名争いの筆頭候補であるドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領は、「米国の大学」は「イスラエルと米国に向けて明示されている憎悪を容認もしくは助長している」と、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に投稿した。

 大学関係者は実際には独自の声明を発表しているが、批判が殺到したため、ハーバード大のクローディン・ゲイ(Claudine Gay)学長は、改めて声明を出さざるを得なくなった。

 ゲイはその中で、「ハマスによるテロ行為を非難する立場を明確にしたい」とした上で、「そうした非人道的な行為は嫌悪すべきものだ」と強調した。

 すさまじい反響を受け、学生の声明に署名した団体のリストは「学生の安全のため」との理由で削除された。

 これらの団体の一部メンバーはインターネット上で「さらし」被害に遭い、本人の同意なしに個人情報が掲載された。また、「ハーバードの主要な反ユダヤ主義者」というタイトルとともに名前と写真を映しだした大型スクリーンを積んだ車両が、キャンパスの近くを通り過ぎた。

 学生新聞「ハーバード・クリムゾン」によれば、幾つかの親パレスチナ団体は署名を取り下げ、中には声明を関知していないとする学生も出てきた。

 ただ、遅きに失したかもしれない。実業家のビル・アックマン(Bill Ackman)によるXへの投稿によると、声明に関わった学生が自社に採用されることのないよう、署名リストをすべて公表するよう要求している最高経営責任者(CEO)もいる。

■不安な時代

 ニューヨーク大では、学生弁護士会の会長が「イスラエルはこの大規模な命の喪失に全面的な責任を負っている」と表明した後、ウィンストン&ストローン法律事務所から内定を取り消された。
 
 西海岸では、名門スタンフォード大の事務当局が、デモ参加者が掲げた親パレスチナの横断幕について非難しなかったことで批判を浴びた。大学幹部は、学生たちは「憲法の庇護(ひご)の下で」意見を自由に表明できる権利があり、横断幕は法律に照らして脅迫的な発言には当たらないとの見解を示した。

 首都ワシントンのジョージタウン大学(Georgetown University)の学生グループは学長に宛て、「パレスチナ人の苦難に沈黙を続けてきた」と非難する書簡を送った。

 エール大学(Yale University)では、イスラエルは「殺りくやジェノサイド(大量殺害)を行う入植国家」だと表現した教授の解雇を求める請願書に、短時間のうちに4万5000筆近くの署名が集まった。

 こうした緊張下、いずれの側の学生も不安を抱いていると話す。

 ブラウン大学(Brown University)のイスラエル学生協会の会長を務めるジリアン・レダーマンは「非常に多くのユダヤ人学生が脅威を感じている。これまでに経験したことがないような感覚だ」と、CNNに語った。

 ハーバード大のパレスチナ人学生は匿名でABCニュースに対し、「非常に敵対的な雰囲気の中で、今はパレスチナ人でいることがとても怖い」と打ち明けた。
 
 ハーバード大は今週、大学警察がキャンパスでの活動を予防的に強化していると発表した。(敬称略)(c)AFP/Inès BEL AIBA