■捕虜たちの生活

 施設内には、両脚の切断を余儀なくされるなど、重傷を負った捕虜の姿もあった。また、榴散(りゅうさん)弾を浴びたという、顎が変形し顔に傷のある捕虜もいた。この男性は発話に支障が出ており、「食事もままならない」と話した。

 報道陣に公開された部屋には、テレビや冷水器が設置されていた。職員の立ち合いの下ではあるが、電話をかけることも許可されている。

 菓子やたばこ、コーラ飲料などをそろえた売店があるほか、図書館ではダン・ブラウン(Dan Brown)からフョードル・ドストエフスキー(Fyodor Dostoevsky)まで、ロシア語で本を読むことができる。

 捕虜1人当たりに割り振られる予算は月額およそ270ドル(約4万円)。その中からせっけんや練り歯磨き、かみそりなどの洗面用品が支給される。

 ヤツェンコ報道官によると、捕虜の中には精神的支援を受けた人もいる。捕虜たちはウクライナ国内の「収容所の外を怖がっている」ため「逃げ出す理由はない」としている。大半が、ただロシアに帰りたいと望んでいるという。

 報道陣は、特定の捕虜に直接話を聞くよう促された。ヤツェンコ氏の話では、これらの捕虜は全員、取材に同意しているとのことだった。

 ある捕虜は、ロシア北東部チュコト(Chukotka)の辺境出身だと話した。従軍契約を交わす前は、漁業やトナカイの世話、大工仕事で生計を立てていた。ウクライナ東部で2か月戦闘に加わった後、7月に捕虜になったという。「言えるのは、前線では長く生きられないということだ。数時間もいれば分かる」

 平日の収容所では、捕虜たちは午前6時に起床し、洗顔やベッドメーキングをして点呼を受け、6時50分に朝食を取る。

 午前8時30分から午後4時30分までが作業時間で、プラスチック製の屋外家具や紙袋の製作、大工仕事などを行う。

 昼食は午後0時30分から、夕食は7時15分からで、10時に消灯となる。

 掲示板に、ウクライナ国歌の歌詞が張り出されていた。ヤツェンコ氏は、捕虜はウクライナ国歌を毎朝聞くが、歌うのは強制されていないと説明した。ただし、侵攻で命を落としたウクライナ人のために毎日1分間の黙とうを行うことになっており、この時間はどの捕虜も道具を置き、祈りをささげなければならないという。

「捕虜たちはわが国の領土に観光客としてやって来たのではない。われわれの方が合わせる義務はない」とヤツェンコ氏。「捕虜たちには、自分が今どこにいるのか意識してもらう必要がある。忘れてはならない」

 映像は9月19日撮影。(c)AFP/Anna MALPAS