【9月30日 AFP】中国人観光客にとってタイは、水掛け祭りやランタン祭り、美食などで知られる楽園だった。しかし、映画やSNSを通じて危険な無法地帯だとのイメージが広がり、訪問客が激減している。

 タイは観光立国だが、特に中国人観光客への依存度が高い。政府統計によると、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)前の2019年、中国からの訪問客は1100万人と過去最高を記録し、全観光客の4分の1を占めていた。

 ところが、今年に入ってからの中国人観光客数は230万人にとどまる。

 政府は中国人観光客を呼び戻そうと躍起になっており、9月からはビザを一時的に免除している。

 しかし、中国のSNSで、タイでは観光客が誘拐され、ミャンマーやカンボジアにある詐欺グループの拠点に連行され働かされる恐れがあるといったうわさが拡散したことが痛手となった。

 中国から家族で1週間の旅行にやって来たという看護師の女性(44)はAFPに対し、両親に反対されたと話した。

「(両親は)タイは危険だと思っていて、行かないよう説得された」。「友人たちは、まず私が無事だったら、自分たちも行きたいと話している」と語った。

 大ヒットした中国映画『孤注一擲(No more bets)』が、追い打ちを掛けた。

 あるコンピュータープログラマーが某国で人身売買の被害に遭い、暴力がはびこる東南アジアの詐欺拠点に連れ去られるという内容だ。被害に遭った国がどこか明示されていないが、タイを強く連想させる描かれ方となっている。

 映画は「事実」に基づいているとうたっており、8月に公開されたばかりなのに、すでに今年の中国国内での興行成績第3位に入っている。

 実際、数千人の中国人がだまされて、ミャンマーやカンボジアを中心に東南アジアの詐欺拠点で働かされていると、AFPはじめメディアは報じている。

 ただし、そうした人々は旅行中に通りで拉致されたのではなく、高収入といううたい文句につられて被害に遭うケースが大半を占めている。これまでのところ、タイ国内では詐欺拠点は確認されていない。

 旅行中の北京の学生(22)はAFPに対し、「誇張された」部分もあるのは分かっているとしながら、「カンボジアやミャンマーなどに連れて行かれるのではないかと心配だ」と話した

 タイ国旅行業協会(ATTA)のシティワット・チーワラッタナポン会長はAFPに、「事実ではないのにタイが標的にされている」と語り、オンライン上の否定的なコメントが観光客減少の一因になっていることを認めた。

 今年3月にそうした書き込みがあり、急速に拡散した。東南アジア旅行の安全性を問うトピックは、中国系SNSの微博(ウェイボー)でトレンド入りした。

 拡散が一向に収まらなかったため、北京のタイ大使館は、旅行者の安全対策を講じる方針を発表したほどだった。

 隣国カンボジアにも影響は及んでいる。カンボジア旅行業協会のチャイ・シブリン会長はAFPに、状況は悪化していると打ち明けた。同会長が経営する旅行代理店では、今年に入ってからの中国人団体旅行客のツアー参加はゼロだ。安全面での懸念を示す人が多いという。

 シブリン氏は「中国人は政府の言うことは聞くので、中国政府が支援してくれればカンボジアにもすぐに来てくれるようになると思う」と語った。(c)AFP/Sarah Lai with Peter Catterall in Beijing