「発泡する紹興酒」は中国のZ世代に支持されるか
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【8月21日 東方新報】中国沿海部の浙江省(Zhejiang)一帯では、娘が生まれると、キンモクセイの下に紹興酒のかめを埋める習慣がある。娘が成長して結婚式を迎えると、両親はそれを祝って、かめの封を切り、祝宴の参加者にふるまうのだ。歳月を経て熟成された紹興酒は何とも言えないフルーティーな味わいになるという。
現代ではマンション暮らしで庭がない人も多いため、紹興酒は購入した酒蔵に貯蔵を依頼するケースが大半だという。貯蔵された紹興酒のことを「女児紅(じょじこう)」と呼ぶ。この名前は紹興酒メーカーの名前にもなっており、中国ではかめを埋める習慣と共によく知られている。
最近の宴会には、息子が生まれた時から貯蔵してきたという年代物の紹興酒も出てくるようになった。息子が立派に育って都へ試験を受けに行くことを願い、合格すると、それを祝って貯蔵していた紹興酒を親類や近所の人たちにふるまわれたというストーリーがあるらしい。その名も「状元紅(じょうげんこう)」。状元とは中国の官吏登用試験である「科挙」のトップ合格者に与えられる称号である。
科挙は清末に廃止されたため、実際には息子の結婚式でふるまわれることが多い。浙江省出身の知り合いに聞くと、新婦側が「女児紅」を、新婦側も「状元紅」をふるまうことでバランスを取るようになったのだという。中国の結婚式は年々派手になっており、ブライダル産業の創意工夫も加わって、美しいストーリーが生まれたのかもしれない。
もっとも中国で結婚するカップルは年々減っている。2022年の婚姻件数は前年より約80万組少ない683万組で、統計がある1986年以降で最低だった。背景には、コロナ禍だけでなく、日本や韓国などと同じような若者の価値観の変化があるといわれる。
1990年代後半から2010年ごろまでに生まれた中国のZ世代は、生まれた時からモノがあふれ、中高生になったころにはスマートフォンを手にしていた一人っ子である。結婚は、進学や就職などと同じ人生の一つの選択肢にすぎず、必須だとは思っていないのだ。披露宴のような大宴会もお酒もZ世代である彼女彼らのライフスタイルにはない。SNSでつながってさえいれば、それでいいのである。
さぞや紹興酒メーカーの売り上げも減っているのではないかと思って調べると、2023年第1四半期の紹興酒メーカー大手3社の収入は微減だった。中国メディアによると、若者の酒離れだけでなく、浙江省を中心としたエリアから消費地を拡大できなかったことが要因だという。
明るいニュースもある。紹興酒をシャンパンのような口当たりにした新商品が人気だという。先行して発売されている発泡する日本酒もシャンパンの本場である欧米で高い評価を受けており、発泡する紹興酒も市場に受け入れられれば、消費地が一気に拡大するかもしれない。
娘が生まれると、キンモクセイの下に埋められてきた紹興酒。その芳醇(ほうじゅん)な味わいが最上とされてきたが、若い世代にはシャンパンのような軽い口当たりが好まれるかもしれない。中国のZ世代の感想を聞いてみたいものである。(c)東方新報/AFPBB News