日本で紹興酒の価格下落 RCEP追い風に
このニュースをシェア

【7月9日 東方新報】中国で最も古い酒とされる「黄酒」とは、米や麦などの穀類とこうじで造る醸造酒の総称である。中でも浙江省(Zhejiang)紹興市(Shaoxing)一帯で、もち米から造られる黄酒は「紹興酒」と呼ばれ世界的に知られる。
日本や中国、韓国、東南アジア諸国が参加する「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」が2022年1月に発効してから1年以上。紹興酒の関税も年々下がり、2042年には全て撤廃されることになっている。
日本の統計によると、2022年、紹興酒を含む「黄酒」の輸入額は2019年比約6%増の約15億6000万円だった。RCEP発効や本格的な中国料理「ガチ中華」ブームもあるのだろう。行きつけの中国料理店のメニューに載っている紹興酒の種類や値段の幅も広がってきた。
飲みやすい紹興酒の銘柄の一つに「孔乙己(こういっき)」がある。飲めば、その名の由来である紹興出身の作家、魯迅(Lu Xun)の小説『孔乙己』に話題が及び、やがて口角泡を飛ばす激論となるというのが中国の「酒場あるある」である。
魯迅が『孔乙己』を発表したのが1919年。当時の中国は辛亥革命で清朝が打倒され、激動の時代に入っていた。主人公は、古くさい漢文調の言葉で話す落ちぶれた知識人、孔乙己。世界から取り残された中国の姿を彼になぞらえたのだろう。
孔乙己は酒場で時代遅れの「教養」をひけらかし、店員や客から侮られていた。そんな孔乙己が盗みをして脚を折られたというウワサが広がる。しばらくして脚を負傷し、両手で這(は)って酒場に来た孔乙己。「つまずいて折ったんだ、つまずいて、つまずいて…」と弁明しながら、泥だらけの手から小銭を出して酒をせがむ。なんとも情けない酒飲みの話なのだが、なぜか考えさせられてしまうのである。
魯迅が小説家を志したきっかけは、留学先の日本の医学校での授業中、日露戦争の参考映像として中国の人びとが打ち首にされる資料を見たことだといわれる。列強に両脚を折られても、つまずいたのだと言い訳をして立ち上がろうとせず、時代遅れの教養に満足している祖国が許せなかったのだ。
魯迅は一方で、その情けない孔乙己について、食べ物をせがむ子どもたちに酒のつまみである「茴香豆(ういきょうまめ)」を恵んでやるような一面も描いている。時代遅れの心優しい教養人。そう言われてみれば、孔乙己はどの酒場の片隅にもいそうな平凡な客である。
紹興酒は決して強い酒ではない。しかし、甘くふくよかな口当たりでつい飲み過ぎてしまう。RCEPの恩恵で紹興酒が安くなっても気をつけてほしい。酒瓶に「孔乙己」の名前を見たら、哀れな酒飲みを思い出して、ほどほどにしておくのがよさそうだ。(c)東方新報/AFPBB News