【6月18日 AFP】ロシアのウクライナ侵攻の影響で、長年緊密な関係にあった両国の裏社会に亀裂が入っている。ウクライナの密売人、キリムさん(仮名、59)が、港湾都市オデーサ(Odesa)のカフェで語った。

「ウクライナの犯罪者の大多数はウクライナの味方だ」。コーヒーを運んで来たウエーターが離れるのを待って、キリムさんは言った。「でもロシアと協力し続けるやつらもいる」

 旧ソ連崩壊後、政治腐敗が拡大する一方で、文化的、言語的、歴史的なつながりを持つ両国では組織犯罪が横行。麻薬や銃の密売、人身売買のネットワークは世界でも最強レベルとなった。

 NGO「国際組織犯罪対策会議(Global Initiative Against Transnational Organized Crime)」のチューズデー・レイタノ(Tuesday Reitano)氏は、両国の闇社会のつながりについて「欧州で最も緊密な犯罪エコシステム」だと指摘した。

 つながりは侵攻で混乱はしているが、依然存在する。

■「愛国的」犯罪者

 侵攻が始まると、前線での戦闘や検問所の設置などにより、ロシアと欧州をつなぐ密輸ルートは寸断された。大規模な破壊とウクライナ国民が強いられた苦難への怒りから、ウクライナとロシアの間には壁ができた。

 レイタノ氏は、「ウクライナではロシアへの反感が強まっており、犯罪者さえも愛国的になっている」と分析する。

 愛国者を自任する密売人のキリムさんも、ロシア人との取引を完全にやめたと話した。

 兵士や市民を支援するために寄付している犯罪者もいる。中には兵士として前線で戦うことを選んだ事例もあるという。

 オデーサで借金取りとして働くアレクサンドルさん(仮名、40)も、自身は愛国者で、ロシア人との取引は断っていると話した。ただ、国家は根本的に腐敗しているとし、犯罪者間のルールでは国家への協力は一切認められていないと語った。

「彼ら(軍)のために戦うのはごめんだが、自分の街のためなら戦う」と、サングラスをかけたアレクサンドルさんは、2杯目のビールを飲みながら言った。

 キリムさんとアレクサンドルさんによると、侵攻開始後、ウクライナの治安当局は裏社会に活動停止と、ロシアに関する情報提供を求めた。

 これに従わなかった者もいる。

 治安当局はAFPに、ロシアに協力し、「地元住民を怖がらせ、脅していた」オデーサの有力犯罪組織を2022年春に「無力化」した事例を明かした。

■「オデーサはオデーサ」

 取引相手がロシア人であろうがなかろうが、侵攻に伴う障害があろうがなかろうが、犯罪者たちはオデーサで活動を続けている。

 キリムさんは軽く肩をすくめた。「そうはいっても何も変わらない。オデーサはオデーサのままだ」

 侵攻が始まると、国際犯罪組織の幹部らはロシアやウクライナを離れ、中央アジアや湾岸諸国などに散らばった。

 レイタノ氏は「ロシアとウクライナの裏社会は今も、ウクライナ国外で協力関係を維持していることが分かっている」と話した。

 欧州警察機関(ユーロポール、Europol)も、両国のマフィアが協力を続ける可能性は極めて高いとみている。カトリーヌ・ドボール(Catherine De Bolle)長官は「現時点でロシアとウクライナのマフィアの関係断絶は確認されていない」と述べた。(c)AFP/Joshua MELVIN