【6月9日 AFP】ウクライナ南部ヘルソン(Kherson)州のロシア支配地域にあるカホウカ(Kakhovka)水力発電所のダムが6日に攻撃を受け決壊した問題で、専門家らがエコサイド(大規模環境破壊)を危惧している。

 ドニエプル(Dnipro)川は決壊したダムの水で氾濫し、州都ヘルソンや数十の村が洪水に見舞われ、2万人近くが避難を強いられている。

 ウクライナとロシアはダム破壊の責任をめぐり、互いを非難。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は「人道に対する罪であり、エコサイド」だと糾弾した。

■動植物への脅威

 180億トンの貯水が放出されたことによって、欧州で4番目に長いドニエプル川流域の生態系は深刻な打撃を受けると懸念されている。

 ウクライナの環境NGO「エコアクション(Ecoaction)」によると、被害は黒海(Black Sea)沿岸にまで及ぶ可能性があり、一部では一時的に淡水化が起こるかもしれない。

 絶滅危惧種の固有種も含め、魚類、軟体動物、甲殻類、微生物、水生植物、げっ歯類などの「大量死」が起きる可能性もあると同団体は警告している。また「死んだ生物の腐敗による水質悪化」にも警鐘を鳴らしている。

 ウクライナ自然保護連合(Ukrainian Nature Conservation Group)は、少なくとも5000平方キロの範囲で野生生物に対する影響が見られると予測。「6日の1日だけで、過去100年間を上回る打撃を受けた種もあるかもしれない」と指摘する。また影響を受けた魚類が回復するには10年かかる可能性があり、営巣している鳥類の中にはこの地域から姿を消すものもあるとみている。

 国際動物福祉基金(IFAW)によると、家畜や飼育動物も危険にさらされている。IFAWウクライナ支部の職員は「シェルターにはすでに救出要請が押し寄せている」と述べた。

 ノバカホウカ(Nova Kakhovka)動物園は完全に水没し、「ハクチョウ以外のすべての動物が死んでしまった」という。

 また、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の生物圏保存地域である黒海生物圏保護区(Black Sea Biosphere Reserve)など幾つかの国立公園も直接の脅威にさらされている。

■汚染

 ダムの決壊と廃水・下水設備の損壊によってさらに懸念されるのが、ごみ、農薬、有害物質などによる広範な汚染だ。

 ウクライナ当局は6日、エンジンオイル150トンがドニエプル川に流出したと明らかにした。さらに300トン以上が流出する恐れもあるという。汚染は黒海に達すると予想され、プランクトンからイルカまでさまざまな生物に影響が及ぶ可能性がある。

■洪水と水不足

 同日に大規模避難について発表したアンドリー・コスチン(Andriy Kostin)検事総長は、4万人以上が洪水の危険にさらされていると警告した。

 被害はさらに、ウクライナが主要供給国の一つとなっている穀物を含めた農業や畜産業にも及びそうだ。

 決壊したカホウカダムは、ウクライナ南部の乾燥地帯に飲料水とかんがい用水を供給しており、今回の事態で数百万人分の水供給が大きなリスクに直面している。

 IFAWは、水不足により一部の地域は干上がる恐れがあると述べている。前述の職員は「水生動植物の腐ったバイオマスが今後数か月で乾燥し、砂漠化さえ起き得る」と述べた。(c)AFP/Delphine PAYSANT