【6月2日 東方新報】中国では、ミルクティーやフルーツティーといったお茶をベースにした清涼飲料、言わば「新感覚ティー」が人気。そんな新感覚ティーのドリンクチェーン「喜茶(HEYTEA)」とイタリアのファッションブランド「フェンディ(FENDI)」のコラボが大当たりし、流行に敏感な若者たちの注目を浴びている。

 HEYTEAは5月19日から6月半ばまで北京市で開催されるFENDIの展示会会場に、中国と西洋の要素を融合させたスタイリッシュな茶室を設置。少数民族イ族の伝統料理などに用いられるスパイスを使った限定スイーツを、FENDIのロゴ入りで販売した。それに合わせ、国内のHEYTEA各店ではFENDIのロゴ入りで、シックなイエローとブラックを基調にした容器で一杯19元(約372円)の限定ドリンクを売り出した。2杯セットで買うとFENDIのネームワッペンかロゴ入りコースターがもらえるという特典付き。

 このFENDIコラボドリンクがバズった。中国ではデリバリーが普及し、ドリンクもスマホからオンランインで注文するのが普通。時短にもなって便利なのだが、このFENDIドリンクに関しては注文が殺到し、オンライン注文だけで500杯待ちや600杯待ちが当たり前となった。時短どころか4時間待ちなどということもあったという。売り切れ店が続出し、多くの店でオンラインでの注文を暫定的に停止したほどだ。

 一方、代理購入を請け負う者も現れ、一杯60元(約1176円)まで値上がりした例もあった。FENDIのロゴが入った紙袋、特典の景品、使い終わったあとのカップまでがネット上で転売される始末。

「19元で人生初めてのFENDIを持てた」

「私が最もFENDIに近づいた時」

 こんな冗談を交えた喜びの声が、次々とネットにアップされていった。

 今回のコラボは、普段ドリンクの方に親しんでいる消費者にとっては、新鮮味もありFENDI体験ができるとあって嬉しい機会だろう。一方、「高級ブランドFENDIのイメージを下げるのではないか」と心配するファンもいる。だが、業界関係者によれば、FENDIにとって今回のコラボは目的ではなく、あくまでもローカライズマーケティングの手段の一部に過ぎないという。庶民的なドリンク利用者の中に潜在する将来のFENDI消費者を見据えているのだ。

 HEYTEAとFENDIのコラボは一例だが、中国における新感覚ティーの勢いはしばらく続きそうだ。

 今年のゴールデンウイークには、コロナ禍からのリベンジ旅行で地方の観光地が賑わった。暑い日が多かったこともあってか、中でも新感覚ティーを中心にしたドリンクの売れ行きが好調だったという。そうした例が示すように、北京や上海といった大都市のみならず、地方の中級都市などでまだまだ開拓できる市場の余地が大きそうだ。

 新感覚ティー人気は、お茶業界全体の活性化にもつながる。例えば、高級な茶葉は、本来葉の形が整っていることも要求される。だが、ドリンクチェーンで使われる茶葉は、あらかじめ加工や抽出されるので見た目にこだわる必要はない。

「新感覚ティーが原材料に求めるのは味と香りです。形は悪くても品質が良い茶葉が利用されるチャンスです」

 中国茶葉流通協会の王伝友(Wang Chuanyou)副会長は、歓迎する。

 新感覚ティー業界の新規参入のハードルはそれほど高くないとされるが、その分、生き残るための競争は激しく、原材料や加工技術において常に刷新を求められる。王副会長はこう指摘する。

「ティードリンク産業が発展するためには、多様な需要に適応する必要がありますが、長く利益を上げるために一番重要なのは、経営努力をして品質を保ち、消費者に健康的で美味しく経済的でおしゃれな商品を提供することです」

 マーケティングや他業界との垣根を超えたコラボなどでの話題作りも、市場から忘れられないための重要な手段だ。

 白いTシャツにFENDIのネームワッペンを縫い付けて「ありがとうHEYTEA。これで5000元(約9万8117円)節約できた」という人。ロゴ入りの紙コップをきれいに洗って「FENDI製」の花瓶にしてリビングに飾る人。今のところ、この話題は尽きていない。(c)東方新報/AFPBB News